実は様々な種類がある『放牧』

 一般的に牛を牧草地に放牧している場面をテレビや北海道を紹介する旅行パンフレットなどで目にしたりすると思います。また身近に牧場があり、直に牛が放牧されているのを見たことがある方もいらっしゃると思います。実は、単に「ああ、牛が放牧されていて、のんびりと草を食べているなぁ」と見受けられがちですが、放牧されているには確固たる理由などがあるのであります。そして、一言に放牧と言っても、実は放牧にも種類があるのです。先ずは、その『放牧の種類』を紹介させて頂きます。

 

@固定放牧:放牧地を分割する事なく1箇所で牛を放牧する種類。放牧地を広く使える利点がありますが、食欲旺盛かつ巨体な牛が絶えず放牧されるので、草が無くなり禿地状態になってしまう、つまり草地を休ませる事ができないという欠点もあります。

 

A輪換放牧:草地を幾つかの放牧地に区分し、順次、放牧地を換えてゆく種類。順次違う区分を放牧してゆくので、草地の休養ができます。

 

B帯状放牧:Aよりも更に放牧地を小さく帯状に区分し、半日から1日で区画を帯状に移動させる種類。

 

C時間制限放牧:文字通りであり、1日のうちの時間を決めて放牧する種類。

 

D季節放牧:これも文字通りで、特定の季節のみ放牧する種類。

 

E晩秋放牧:牛舎内での飼い期間を短くするために初冬近くまで放牧する種類。長野県の八ヶ岳高原にある牧場、福井県勝山市にある牧場では、この種類の放牧を行っているそうです。

 

F周年放牧:年間通して放牧する種類。温暖で酪農が盛んな千葉県辺りで合いそうな放牧です。

 

G混合放牧:種類が異なる家畜動物(例:牛と馬、牛と羊など)を同じ草地に放牧する種類。

 

以上8種類の放牧があります。次は放牧の特徴などを紹介して参ります。

放牧の特徴(利点と留意点)

 牛を放牧飼いにする事によって以下の利点が挙げられます。

 

@『牛の身体が鍛えられる』
 先ず何よりも、第一にこれが挙げられるのではないでしょうか。人間も運動(ウォーキングやジョギング)する事によって足腰をはじめ身体全体が健全に鍛えられますが、牛も同様であります。「放牧=歩く・走る」ですので、自ずと牛は健全になり、足腰の故障や分娩前後の事故が少なくなります。これは極めて酪農経営では重要な事項であり、足腰が弱いために分娩前後で起立不可となり、乳牛を淘汰というのは最悪な事態であるので、放牧で牛の足腰が強くなるというのはとても大切な事なのです。更に元気な牛なので、他へ売れる事も可能となってきます。

 

A『コストの低減』
 牛が好き勝手に生えている草を食べるので、牛自ら殆ど刈り取り・給餌を行ってくれるので、飼料費の軽減につながります。また、草を食べた後の産物である「糞尿(肥料)」も草地に撒いて土に還元してくれるので、肥料の散布および糞尿の処理に要する労力と経費削減になります。

 

B『発情兆候が見つけやすい』
 乳牛にとっては、牛乳を出す・後の後継牛を残すという点で分娩は絶対不可欠です。そして(当たり前ですが)、分娩をするためには種付け(妊娠)が必要であり、種付けするためには「発情」を見逃してはなりません。先述のように、放牧は牛を健全にするので、精力も付き、発情がはっきりとしてくる上、他の牛と放牧されている(群飼い)なので、発情の兆候の1つである、互いの乗駕(乗り合い)行為が見られるので、発情を見つけやすい点もあります。

 

 大まかではありますが、以上の様な放牧飼いについての利点となり、「牛が健全になる」「飼料費削減」など良い事尽くめに見える放牧飼いですが、ただ闇雲に牛を外へ放し飼いすれば完了、という訳ではありません。上記で述べました利点を生かした放牧を実現するためには留意するべき事もやはりあります。それが以下の通りになります。

 

1.「害虫(サシバエやアブ)の存在」
 特に夏季〜秋季になると、牛にとっては正に忌むべき存在であるサシバエやアブが活発になる時期であります。これら害虫は、牛に刺しかかって吸血するのみではなく、牛白血病の病原菌をも牛体に注入してゆく事もあるので、とても危険な存在になります。そして何よりも牛にとっては、複数のサシバエが周辺に飛んでいる事体、ストレスを感じている事でしょう。
 害虫を完全に駆逐するという事は不可能ですが、その存在を留意しておくべきだと思います。

 

2.「放牧草の栄養価を留意する」
 利点Aで、牛は自ら草を食べてくれると記述させて頂きましたが、牛は草であったら何でも食べるものではなく、栄養価が高い短草を主に食し、背の高い草はあまり好んで食べない傾向があります。牧草地に背の高い草がたくさん生えていると安心していると、牛が栄養失調になってしまう可能性もあります。また草の栄養価も時期や草地によって大きく違うので、注意が必要となってきます。因みに春〜夏は草の栄養価が低下する時期なので、特に放牧草に注意するべきでしょう。

 

3.「放牧地に尖った砕石や金物があれば撤去する」
 利点@で、放牧牛は足腰が丈夫になると述べましたが、放牧地に鋭い砕石や金物があったら、それにより蹄の間(趾間・しかん)が傷つき、趾間腐乱(しかんふらん)を発症する場合があるので、草地の定期的な確認が必要になってきます。

 

 以上が放牧飼いで主に留意する点でしょうか。特に2は、牛の食問題ですので特に重要になってきます。放牧でよりカロリーを消費している牛は、より栄養価ある草(飼料)が必要となってきます。この様に、様々な点が留意される事によって、この記事の冒頭で述べました「牛が放牧されていて、のんびりと草を食べている」風景が成り立っているのであります。もし今度、皆様、放牧されている牛を見かけたら、この記事内容を思い出して頂ければ嬉しく思います。

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