乳牛の口の中の正体

 皆様、牛の口の中・歯並びをご覧になられたことはございますか?筆者の勝手な予想ですが、一般の方々では、ご覧になられた方は少ないのではないでしょうか。
牛の歯並び構造の最大の特徴は、『上顎の門歯(前歯)がないことです』。
  

下の画像をご覧下さい。

 如何でしょう?申した如く、上の門歯がありません!その代わりに、強靭な顎骨を持っており、上顎口腔内には少し出っ張りがあり、飼料を食べる際、下顎の門歯と上手く噛み合うようになっています。また上顎の門歯はありませんが、口奥へ行くと、巨大な歯が並んでいます。口奥が一個のプレス機の様な存在ですので、乳牛の飼料は植物を乾燥して固めた石の様な物ばかりですが、乳牛たちは難なく噛み砕いて食べます。
 因みに乳牛の歯平均本数は、「上顎奥歯には12本」「下顎の門歯・奥歯を含め20本」あります。余談ですが、皆様どこかで牛に出会う機会があっても、ご自分のお手を牛の口奥まで入れませんように。親指爪が割れてしましいます・・・(筆者からの痛い経験談) 

 

 牛の口を語る上では、『』の存在も忘れてはいけません。そうです、焼肉や刺身でお馴染の『牛タン』です。長い舌で約30cmもあります!乳牛たちは、この長い舌を上手に使って、長い牧草・小さく固い飼料をすくい上げて、自らの口の中へ運びます。象が自分の長い鼻でエサをすくい上げ食べる、と同じです。正に乳牛達にとって、舌は手でありお箸でもあるのです。
 我々が、牛タンを食べる際は、凹凸なくスベスベしていますが、それは食用に加工後の結果だからです。実際の乳牛の舌は、細かい凹凸があり非常にザラザラしています。まるでタワシです。このタワシの様なザラザラ感も乳牛達が、飼料を食べる際の一助になっていることは確かのようです。理由は簡単であり、飼料を食べる手や箸である舌自体が、あまりにも滑らか過ぎると掴み辛いので、滑り難いデコボコザラザラの方が良いからです。

牛の奇行・舌遊び

 牛は暇さえあれば、自分の舌を上下左右に動かし、周辺の柵や物体を舐め回す『舌遊び』をします。我々の中では、暇を持て余した時、自分の手指を使って他愛もない事をする様な感じでしょうか。学校の授業中で、先生の話など上の空で聞き、鉛筆や消しゴムを使い呆けている子供は皆様の周囲にも居たと思います。(筆者はその部類の非行少年でした)
余談が過ぎてしまいました。牛の舌遊びの話に戻りますが、乳牛の中には、長い舌を自分の鼻孔に入れて遊んでいる牛もいます。自分の舌を鼻の穴に突っ込むなどという奇行は、我々には到底真似できませんね。

 

 牛の舌遊びは、直に観ると愛嬌があって面白い時があります。その動画がありますので、良かったら見てみて下さい。
ジャージー牛の舌遊び:https://www.youtube.com/watch?v=t6IB_TPXdH8
ジャージー仔牛バージョン:https://www.youtube.com/watch?v=0YcEaQATTrY *仔牛は余計に愛嬌があり可愛いです。

 

 愛嬌がある牛の舌遊びですが、実は一種の「精神病」だと言うわれており、主な原因が以下の2つがあります。

 

@大抵の仔牛は産まれた直後に母牛と隔離され、人間の手によって一生育てられるので、母牛の自由に乳を舐めたり、吸ったり(おしゃぶり)する強い欲求行動が抑制され続けられるので、その反動行為の一環として、成牛になっても舌遊びをやってしまう。

 

 補足1:人間の世界の倫理で当てはめると、親子を強引に引き離して生活させるというのは、相当に生々しい事ですが、乳牛の世界では普通に行われています。

 

 補足2:仔牛も母の乳房を吸ったりすることで、精神的に落ち着くので、それを拒否され続けられるのは精神的に辛いようです。これは我々を含める哺乳動物の赤ん坊は全部同様です。赤ん坊のおもちゃである「おしゃぶり」の存在は、正に、その事を象徴していると思います。

 

A牛舎などの建物内で繋留された状態で飼育されている場合、多くの行動が制限される状態でストレスが溜るので、その発散法の一つとして、舌遊びをする。

 

 補足:重複しますが、一言で表すと本当の暇つぶしに分類されますね。やはり何もしないのは牛たちにも辛いようです。この時に、おやつ代わりで置いてある塩飴を舐めたりすることもあります。

 

 乳牛の舌遊びは不可避の病気ではありますが、死活に関わる重病に発達するケースは無いので、温かい眼で見てあげて下さい。筆者の経験談を述べさせて頂くと、舌遊びの有無を、食欲の有無・鼻頭の湿りの有無と並んで健康チェックの測りの一つにしていました。暇を感じる余裕があり、舌遊びをする。というのは元気な証拠ということです。実際、何かの原因で調子が悪い乳牛は舌遊びをしていませんでした。首がうな垂れて、ボーっとしていました。(あくまで、筆者個人の観察です)

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