フリーストール牛舎とそれに適応する搾乳方法
前回の記事では、現在でも主流の搾乳方法となっている「パイプライン搾乳」について紹介させて頂きましたが、今回の記事では、『別タイプの搾乳方法』について少し紹介させて頂きたいと思います。
早速結論から記述させて頂くと、その別タイプの搾乳方法は『ミルキングパーラー』・『ロボット搾乳』の2種類に分類されます。ミルキングパーラー・ロボット搾乳ともに、繋ぎ飼いされていない乳牛が自由に歩き回れるスペースがある牛舎、通称:『フリーストール牛舎』で適用されています。
因みにフリーストールを英訳すると、『Free Stole』。Stoleには、アフガンマフラー・肩掛け(ストラ)という意味もありますが、畜産用語では、『畜産動物を飼養する際に使う囲い』という意味で用いられます。つまり、『フリーストール(Free Stole)牛舎=囲いが無い牛舎』という意味になります。
フリーストール牛舎で飼養されている乳牛搾乳で適用される『ミルキングパーラー方法』・『ロボット搾乳』について順繰りに紹介させて頂きますが、今記事内では前者のミルキングパーラーを中心に紹介させて頂きます。
ミルキングパーラーとは?
ミルキングパーラー搾乳について簡潔に述べさせて頂くと、『牛舎で放し飼いされている乳牛を搾乳時にパーラー(搾乳場所)へ集結させ、牛乳を搾る方法』となります。乳牛にとっては、鎖などで繋がれて、四六時中、同じ場所に拘束される繋ぎ飼いよりも、搾乳時以外は、牛舎を好きに動き回れ、好きな場所で休憩できるミルキングパーラー(フリーストール牛舎)の方が、環境的に好ましいものであります。
ミルキングパーラー搾乳の特徴として挙げられるのが、『乳牛100頭以上などを飼養する大規模生産者に好都合』であるという事です。パイプライン搾乳装備の繋ぎ飼い牛舎では、パイプの配管の設置条件や牛床での高低差などを考慮する必要があり、その上、作業負荷や作業時間を考慮すると乳牛50頭〜60頭が限界とされています。
その反面、ミルキングパーラー搾乳の場合ですと、ミルカーを移動させる必要が無く、一定の場所で乳牛を搾乳が可能である上、乳牛通路より一段低い作業用空間から搾乳ができるので、搾り手は乳房を目の高さで見ながら作業する事ができます。普通のパイプライン搾乳では、一々しゃがみ込んで搾乳作業をしなければいけないので、ミルキングパーラー搾乳の方が、搾り手たちにとっても大変作業し易いシステムだというのがお分かり頂けると思います。また、ミルクパイプを(パイプライン搾乳に比べて)短く太く、かつ乳房より低い場所に設置可能であることから、効率的に搾った牛乳を搬送できるようになっています。近年のミルキングパーラーシステムの技術進化には目を見張るものがあり、ミルカーの拍動機能を進化させた電磁パルセンターや、乳房炎の原因となるミルカーでの搾り過ぎ(過搾乳)を防止するためのミルカー自動離脱装置が標準装備されています。
上記の如く、ミルキングパーラー搾乳は、パイプライン搾乳と比較すると利点が沢山あるのですが、やはり欠点もあります。パイプライン搾乳(繋ぎ飼い牛舎)よりも必要設備および面積が多く必要となり、何よりも設備投資や維持費に莫大な資金を要するという事であります。何よりも先立つモノが。という気持ちになってしまいます。だからミルキングパーラー搾乳は、数百頭規模の乳牛を飼養している大規模生産者向けの設備となってしまうという事も言えます。 我が国では、北海道や東北などを所在としている大規模牛乳生産者では、ミルキングパーラー搾乳を採用しているケースが多いのですが、主に平均40〜50頭の乳牛頭数である中小規模牛乳生産者が多数占める日本酪農業界では、未だパイプライン搾乳が中心となっています。
それぞれの普及率を割合で示すと、「パイプライン搾乳 72.4%」・「ミルキングパーラー搾乳 10.2%」・「ロボット搾乳 0.2%」・「その他(バケット搾乳)16.5%」となり、パイプライン搾乳の普及率の高さがわかると同時に、中小牛乳生産者の多さの証左ともなっています。因みに「その他」にあるバケット搾乳とは、バケツ型真空圧式ミルカーでの搾乳方法であり、10頭以上にも満たない数頭の乳牛のみを飼養している小規模牛乳生産者に採用されています。つまり、大中小、それぞれの規模を有する日本の牛乳生産者では、各々の規模に応じた搾乳方法が採用されているという事になります。
実は今記事で長々と紹介させて頂きましたミルキングパーラー搾乳にも、様々なスタイルがあります。これについての紹介は、今回紹介できませんでした「ロボット搾乳」と共に次回の記事にて執筆させて頂きたいと思っていますので、今記事をお読みなられて搾乳方法にご興味をお持ちになられた方がいらっしゃいましたら、次回も宜しくお願い申し上げます。
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