良き牛舎とは?

 乳用・肉用問わず牛が飼養されている場所を『牛舎』と呼ばれています。
牛床・搾乳パイプライン・飼槽など特殊で様々な設備を有する牛舎ですが、それを建設する際には、牛が可能の限りストレスや負荷が掛からないように過ごせる居住環境と安全性、低コストで建てる経済性など様々な条件がバランス良く備えてあることが重要になってくる事は、人間が住む家屋にも相通じるものですが、牛舎の場合は、前記条件群にプラスして、作業員が牛を飼養する作業性の良さも、とても重要な条件となってきます。牛にとってはとても快適な居住環境を整えているが、日々の搾乳、飼料給仕、糞尿処理に多大な労力を作業員が要してしまうのは、決して良い牛舎とは言えません。月並みの結論となってしまいますが、先述のように、「牛の居住性」・「作業員の作業性」、「経済性」などをバランス良く整えている事が牛舎で肝心になってきます。

 

 現在の乳牛の飼養頭数、作業員の労力などを中心とした現状・今後の酪農経営方針に基づいて、牛舎の建築諸条件も変わり、それに拠って幾つかの牛舎の種類に分類されるようなります。即ち、乳牛を繋留具(チェーンなど)で飼育する『繋ぎ飼い牛舎』、広い区画の中で放して飼う『放し飼い牛舎』、狭い区画で放し飼いする『牛房飼い式牛舎』となります。因みに「繋ぎ飼い・放し飼い」の両牛舎は、「搾乳牛」で用いられ、後者の「牛房飼い」は育成牛(未経産牛)や乾乳牛に用いられます。
 兎に角にも、それぞれの牛舎の種類やその特徴をこれから紹介させて頂きます。

『繋ぎ飼い牛舎』の特徴など

 今更ですが、以前執筆させて頂きました「様々なタイプがある搾乳方法」という記事内で、繋ぎ飼い牛舎や放し飼い牛舎(フリーストール)について少し紹介させて頂いておりますが、今記事ではそれぞれの牛舎の種類や特徴をもう少し掘り下げて、紹介させて頂きます。

 

 繋ぎ飼い牛舎は、先述のように「搾乳牛の飼養に利用される牛舎」であり、文字通り、乳牛を牛舎内で繋留して飼養してゆく形式ですが、それも乳牛の尻側を合わせて配列する「対尻式」と、頭側を合わせた「対頭式」の2種に分類されます。(筆者の勤務先であった牧場では前者の対尻式でしたが、知り合いの酪農家さん達は対頭式牛舎でした)

 

 現在、我が国の酪農家の90%以上が繋ぎ飼い牛舎を用いていますが、その最大理由として考えられるのは、繋ぎ飼い牛舎は約40頭〜60頭の中小規模の乳牛を飼養するには、最適な形式だと言われており、全国的に中小の酪農家が圧倒的に点在する我が国では繋ぎ飼いが採られているという事です。
 繋ぎ飼い牛舎は、牛は殆ど一定の場所に繋がれているので、飼料の給与、搾乳などの全般作業を、作業員が牛の傍まで移動して行うために、労力が掛かります。しかし、牛の移動が制限されている分、一定の範囲内で糞尿が排泄されるので、除糞など清掃作業が比較的に安易に行えるという利点もあります。また給餌の際にも、牛同時が飼料を取り合う競合(きょうごう)が殆ど起こらないというのも挙げらます。他にも繋ぎ飼い牛舎の長短がありますが、それらを纏めて以下のように箇条書きで列挙させて頂きます。

 

*繋ぎ飼い牛舎の長所
@繋留場所が一定なので、発情・種付けの情報管理などの「個体管理」が簡単である。
A採食時の競合が少ない。
B必要敷料が少量ですむ。
C牛舎の敷地面積が少なくてすむ。(つまり経費を抑えることが出来る面もあります)
*短所
@牛が繋留されているため、束縛が大きい。
A搾乳や給餌は、作業員が牛の傍まで行き、作業をしなければいけない。
B作業動線が長くなるので、労力が多く掛かる。

 

以上、繋ぎ飼い牛舎の長短です。牛を繋留しておく事で、個体管理が容易である上、敷料・敷地面積が少なく済むという経費軽減に利がありますが、その繋留という事自体が、牛や作業員に負荷を与えている面も含んでいる事がわかります。正しく「万物には一長一短がある」とは言い当て妙です。

『放し飼い牛舎』の特徴など

繋ぎ飼い牛舎と違って、広い区画の中に牛を放して飼う牛舎を『放し飼い牛舎』と呼ばれ、基本的設備として、牛の休憩場・給餌および給水場所、そして搾乳室があります。繋ぎ飼い牛舎が乳牛40〜60頭ほどの中小規模の酪農に採用されているのに対し、放し飼い牛舎は、作業員の労力面などが考慮され、凡そ60頭〜80頭以上の大規模酪農に用いられています。
 放し飼いでの最大特徴は、繋ぎ飼いと違い、牛の繋留具が無く、牛たちが自由に行動できる、という事です。延々とチェーンなどで拘束されず、舎内を好きに動き廻れるので、牛たちにとっては喜ばしい設備である事は間違いないと思います。他にも以下の利点がありますので、例によって、以下の通り箇条書きで列挙させて頂きます。

 

*放し飼い牛舎の利点
@搾乳や給餌時には、搾乳室(パーラー)や給餌の場所させ覚えれば、牛が自ずと移動してくれるので、作業員は牛たちを誘導させすれば良い。

 

A搾乳室と休憩場が別れているので、搾乳の際には、比較的綺麗な所で、生乳を搾れる。(繋ぎ飼いでは、休憩場・搾乳場・排泄箇所が全て一定なので、それに比べると、搾乳室などが別個に設備されている放し飼い牛舎は、良い環境で搾乳ができます)

 

B牛が搾乳室や給餌場に自ら移動してくれるので、作業員の労力が少なくてすむ。

 

 以上が放し飼い牛舎の利点ですが、作業員の労力削減と牛も一定場所に繋留されていない分、伸々と過ごせるというのが、放し飼いのポイントとなっています。しかしながら、やはり勿論欠点もあります。それが以下の通りです。

 

*放し飼い牛舎の欠点
@牛が常に放し飼いされている状態なので、特別な措置を採らないと、牛の個体管理が行いにくい。

 

A飼料の採食時に、牛同士の競合が発生しやすい。(どうしても卑小な牛は、強い牛に食い負けしてしまう)

 

B牛が放し飼いされている分、いたる所で排泄を行い汚すので、敷料が多く必要となる。

 

C広い区画を要するので、牛舎の敷地面積が多く必要となってくる。(つまり設備に対しての費用が高くなる)

 

 作業員の労力削減、牛への負荷軽減という利点があるという分、それに応じて設備投資額の増加、敷料などの消耗品のコスト高になってしまうという事は否めません。
先述のように、我が国では中小規模の酪農家が多いので、全体の90%以上が繋ぎ飼い牛舎が用いられていますので、諸費用が高く、大規模酪農向けの放し飼い牛舎を採用されているのは、全体の約10%という少ない割合となっています。比較的大規模酪農が盛んな地域である北海道や東方では放し飼い牛舎が多いと言われています。

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