多くの別称を持つホルスタイン種
ホルスタイン種は、他の乳用牛よりも、優れた産出乳量を誇っていますので、日本を含めるアジア諸国をはじめ、欧米諸国・南米・オセニアといった世界各国で最も飼育されている乳牛であり、正に『乳牛の女王』(筆者が勝手に呼称)に相応しい乳牛です。 主な酪農国で飼育されている乳用牛の内、ホルスタイン種が占めている飼育割合ですが、原産国とされるオランダで約76%、フランス約80%、スイス24%、英国約58%、米国95%、カナダ94%、オーストラリア84%、とスイスを除けば、どの国でもホルスタイン種は高割合で飼育されています。そして、日本はどの酪農各国よりも割合が最も高く、99%となっています。「日本酪農産業=ホルスタイン種」となっています。
この乳牛の女王というべき品種名「ホルスタイン」についてですが、日本ではこの呼び方がよく知られており、国機関でも使われる正式品種名(厳密に言えば、ホルスタイン・フリーシアン種)と定着していますが、諸外国では、各々違った品種名で呼称されています。原産国オランダでは、「ブラックandホワイト」、フィンランド「フリーシアン」、ベルギーとチェコ「ピエ・ノワール」、英国「フリーシアン・ホルスタイン」、イタリアとスペイン「フリゾナ」といった呼び方をされています。
因みに、日本で馴染みの深い「ホルスタイン」という名前は、ドイツにある地方・ホルスタインという地名から由来しています。米国が最初に、この乳牛を輸入したのが、ドイツのホルスタイン地方の乳牛であったので、そのままホルスタイン種という名前が用いられるようになり、その米国から、日本が初めて(明治時代)ホルスタイン種を輸入したので、それ以降現在に至るまで、「ホルスタイン」という品種名が定着したのです。
ホルスタインの起源
先程より何度か述べさせて頂いておりますが、ホルスタイン種の原産国は『オランダ王国』であり、ホルスタインという品種名も、オランダのフリースランドという地方名が由来となっています。
紀元前300年頃、現在のドイツのライン川を経て、オランダ・フリースランド地方へ移住してきた人々によって持ち込まれた牛が、ホルスタイン種の祖先と言われ、歴史が深い牛となっています。
オランダ(和蘭)という国名は、戦国時代に宣教師によってもたらされたポルトガル語の「ホランダ(Holanda)」から変化した和製呼称であり、オランダ本国や英米では、「ネーデルランド(Nederland)」という国名で呼称されています。
「ネーデルランド」は、「低地の国(地方)」という意味であり、古来よりオランダは正に「低地国」であり、海とライン川の分流河川によって、殆どの国土が水により浸食されている状態でした。この様な凄惨な状況で、細々とホルスタインが飼育されていたと思われます。
漸く17世紀になって堤防構築が本格化し、19世紀にその堤防が完成されると、永く湿地帯であった国土が干拓化され、これ以降、オランダの農業生産力が飛躍しました。
ホルスタイン種の本格的な飼育および品種改良が開始されるのも、やはり干拓化が成功した19世紀以降からになります。主な改良目的は、乳量向上に絞られましたが、時折、肉質向上を図り、肉用牛で赤褐毛のショート・ホーン(SH)種との交配改良が行われ、赤白斑毛ホルスタインが誕生した時期もありました。しかし、この赤白ホルスタインは、肉質が左程良くない上に、産出乳量も減少したために、19世紀後半には、肉質向上を目指したSH種との交雑改良は中止されました。
因みに、現在でも上記の経緯によって誕生した赤白ホルスタインが飼育されている所(特に外国)を見かけますが、これもホルスタイン種として正式に登録されており、レッドホルスタイン種と呼ばれています。
体格には、「ヨーロッパタイプ」と「北米タイプ」がある
現在でも、多くの国々で乳用として飼育されているホルスタイン種は、毛色は「黒白斑」であり、平均体高が140cm〜150cm、体重が約650kgと基本的に大中体型となっており、大型体形『北米タイプホルスタイン』と、中型体形『ヨーロッパタイプホルスタイン』の2種によって大別されているのです。
@『北米タイプ』である大型ホルスタインは、乳専用種として改良され、一般的に角形痩身であり、後肢が長大で、乳房が大きく発達しているホルスタインとなります。
A『ヨーロッパタイプ』である中型ホルスタインは、原産国・オランダでのホルスタインを肉用として体格改良した経緯があるのが原因なのか、乳肉兼用となっています。文字通り欧州各国で飼育されていたタイプでしたが、1970年になると、ヨーロッパタイプは姿を消し、現在では、米国から逆輸入形式で、北米タイプ(乳専用)が飼育されています。
日本で飼育されているホルスタインタイプは、@の北米タイプとなっています。優れた産出乳量能力を持っている事も、日本で北米タイプを占めている理由と考えられますが、原点を辿ると、明治22年、初めて輸入されたのが、米国産ホルスタイン種であったという事実も見逃せません。
ホルスタイン種が輸入された当初、(明治)政府は、優れた乳牛である本種の繁殖奨励を行っておらず、寧ろ、質は下がるが、肉と乳の一挙両得を狙って、乳肉兼用種(シンメンタール種など)の繁殖に力を注いでいました。しかし、乳肉兼用種の産肉量と肉質や乳量が芳しくない結果となり、明治末期頃になると、兼用種の繁殖は中止され、肉用種と乳用種が分けられ、飼育されるようになりました。
上記の風潮の中で、肉用専一として和牛が台頭し、乳用専一では「ホルスタイン」が着目されるようになり、日本各地で本種が飼育されるようになり、1911(明治44)年に日本蘭牛協会(現・日本ホルスタイン協会)が設立され、大正・昭和を経て、ホルスタイン種の血統保守や繁殖に貢献しています。
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