「固定式ミルキングパーラー」タイプ

80頭以上の乳牛を飼養している大規模酪農家などでよく採用されている搾乳技術「ミルキングパーラー」の詳細(特徴など)につきましては、前回の記事「様々なタイプがある搾乳方法」で紹介しましたので、今記事では割愛させて頂きます。今回は、前回紹介できませんでした『ミルキングパーラー』の種類について少し紹介させて頂きます。
 一言に「ミルキングパーラー」と言っていますが、大別すると『固定式パーラー』『回転式パーラー』の2種類に分類されます。『固定式パーラー』とは、パーラーに移動して来た乳牛を縦ないし横列の柵内に並べて固定し、搾乳を行ってゆく形式であり、対する『回転式パーラー』の特徴は、円形(ロータリー)状の柵内に乳牛を並べて、搾乳を行ってゆく形式になります。更にこの2種を細分化してゆくと、『固定式4タイプ』『回転式は2タイプ』の計6タイプになります。これら6タイプのミルキングパーラーに共通している事を、先ず記述させて頂くと、いずれも「少人数の作業者(労力)によって、短時間で多頭数の搾乳を行う事ができるように」と考案され誕生したという事になります。これから6タイプのミルキングパーラーを順次紹介させて頂きます。

 

@『アブレストタイプ』『タンデムタイプ』
 上記2タイプ共に、「固定式パーラー」に属し、「乳牛が1頭ずつパーラー内に入退出が行うタイプ」となります。『アブレスト』は乳牛を縦に並べ、作業者が搾乳を行うのに対し、『タンデム』は乳牛を横に並べて搾乳を行うようになっています。2タイプの共通点は、比較的小規模の放し飼いシステムパーラー(つまり小規模酪農家タイプ)であり、搾乳機械の移動効率が良くなるという長所がある反面、作業者の搾乳動作が少し複雑になってしまう、つまりパーラーの構造上、一定動作でスムーズに搾乳作業を行えないという欠点もあります。
 タンデムタイプは、昭和40年〜同50年頃に、日本国内各地の共同搾乳施設として導入されました。タンデムタイプを図解で紹介しているオリオンファーム株式会社さんのHPを見つけましたのでご参照下さいませ。
 http://www.ows.jp/products/milking/tandem/index2.html

 

 

A『ヘリンボーンタイプ』『パラレルタイプ』
 この2タイプも「固定式パーラー」ですが、@の2タイプと違う点は、「多頭数(群)の乳牛がパーラーを入退出できるタイプ」となります。『ヘリンボーン』は、構造が(@よりのパーラーよりも)単純化され、それに伴って搾乳作業者も簡潔に動作できるようになったので、1人で扱える搾乳頭数範囲が広いタイプとなります。ヘリンボーンは1908(明治41)年頃に、オーストラリアで考案されたパーラーと伝えられていますが、1950年代には、米国内の各農場で頻繁に導入されるようになりました。日本国内でも昭和50年〜同60(1975〜1985)年代頃に、各地の酪農家に採用され始めており、最も導入件数が多かったタイプになります。
 『パラレル』は、ヘリンボーンの改良型というべきタイプであり、100頭以上の乳牛を飼養する大規模酪農家向けの構造となっています。多数の乳牛をパーラー内に横一列に並べ、搾乳を行い、終了後、乳牛たちをパーラー外に一斉退出させる仕組みになっています。パラレルは1985(昭和60)年以降に開発され、日本では平成に入ると、北海道などを所在とする大規模酪農家で広く導入されるようになりました。余談ですが、筆者がニュージーランドに牧場ファームステイした現地の大規模酪農家(飼養乳牛頭数は100頭近くいました)も、このパラレルタイプで搾乳を行っていた事を思い出されます。それまで繋ぎ飼い形式のパイプライン搾乳しか経験したことがなかった筆者にとっては、パラレルタイプでの搾乳は、とても便利に感じ、これこそが海外の大規模酪農スタイルの搾乳なのか、とも思いました。

 

ヘリンボーンタイプ紹介図解:http://www.ows.jp/products/milking/herringbone/ec800.html (引用元:オリオンファーム株式会社のHPより)

「回転式ミルキングパーラー」タイプ

 B『ヘリンボーンロータリータイプ』『アブレストロータリータイプ』
上記の2タイプからは『回転式パーラー』になりますが、両者共に何とも長い呼称だと感じてしまいますが、簡潔にタイプの特徴を述べると、ヘリンボーンロータリーは作業者が乳牛の内側から搾乳作業「内搾り」を行うタイプ、アブレストロータリーは前者とは真逆の乳牛の外側から搾乳を行う「外搾り」タイプと言い換えれると思います。
 昭和50年代半ばに12頭程の搾乳が可能なヘリンボーンロータリーが導入され始めましたが、近年では、1人の作業者がより多くの頭数を安易に搾乳できるアブレストロータリーが、超大規模牧場などを中心に導入されるようになりました。百聞は一見に如かず、現在のハイテクなロータリーパーラーが動画付きで紹介してあるサイトがございましたので、そちらをご覧下さいませ。

 

http://www.ows.jp/products/milking/rotary/index.html (引用元:オリオンファーム株式会社HPより)

 

 上記のサイト動画を見ていると、現在の搾乳技術もここまでの大発展を遂げたのか、と筆者は感慨深くなるのを禁じ得ませんが、これら高度な搾乳技術が酪農界に浸透して来ているのは事実であります。その筆頭例に挙げる事ができるのが、ロボット搾乳でしょうか。次回はそのロボット搾乳などを含める『高度な搾乳技術』について、少し紹介させて頂きたいと思います。

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