昨今、様々な分野(人工知能など)において高度な技術発展や革新ぶりに瞠目させられる事が多々ありますが、それは酪農(搾乳)業界の最新技術に対しても同感であり、パイプライン搾乳に慣れ親しんだ凡夫である筆者が、それらを目の当たりにすると、只々単純に感嘆と技術開発者の方への畏敬の念の気持ちでいっぱいになってしまいます。その筆者が感銘を受けた酪農業界でのハイテクノロジー機器の一部を紹介させて頂くと、仔牛の肥育で欠かせない哺乳を自動的に行う機器「哺乳ロボット(人工自動哺乳装置)」・決められた時間に定量通りの飼料が乳牛に給餌される「自動給餌機」、そして搾乳関連の最新技術機器では2つあり、搾乳作業一式「乳房の前拭き・前搾り・ミルカーの装着・その後の乳房消毒」を一手に担ってくれる『搾乳ロボット』、もう1つは、」日本独自で開発された最新技術であり、パイプラインミルカーの欠点の1つであった、ミルカー機器の搬送を自動化したシステム『キャリロボ』があります。

 

 今記事では、かなり以前より酪農業界の宿痾(しゅくあ)と言っても過言ではない後継者および人材不足の解決方法の大きな一手となりゆる先述の酪農関連最新機器の中で、搾乳最新機器である『搾乳ロボット』と『キャリロボ』について少し紹介させて頂きます。

『搾乳ロボット』の登場

搾乳ロボットの最大の特徴は、『作業者が毎日従事する必要がある搾乳作業全般の労力から解放される』という事です。搾乳に対する負担が大きく軽減される事によって、時間的余裕ができ、その分、他の作業(飼養管理など)に従事する事も可能となってきます。実際、搾乳ロボットを販売している業者さん達も、「搾乳作業者の負担軽減」を最大利点としてアピールしています。
 そもそも、毎日牛乳(生乳)を得るために必要な先述の搾乳作業全般とは何か?それから先ず以下の箇条書きで紹介させて頂きます。(筆者は、典型的な繋ぎ飼い方式・パイプラインでの搾乳に従事していましたので、その経験に基づいて以下を記述させて頂きます)

 

@ミルカー機およびパイプラインの洗浄を行う。

 

Aミルカー機(ユニット)をパイプラインまで手で移動させる。

 

B乳牛の乳頭が糞尿で極度に汚れていた場合、清潔なタオル(ペーパー)などで糞尿を拭き取る

 

C全4乳頭を手搾りを、1乳頭につき3〜5回行い、乳頭に詰まった汚れた生乳を搾り出すと同時に、「異常乳(乳房炎罹患)の有無」を目視で行う。(これらの作業全般を「前搾り」と一般的に呼ばれます)

 

D前搾り段階で、異常乳が無ければ、再度清潔なタオルなどで乳頭を拭く。

 

E前搾りの30秒後(遅くとも1分以内)にミルカー機を乳頭に装着する。

 

F乳牛をミルカーで搾乳中は、従事者はそれから出来るだけ目を離さず、「過搾乳(過度な乳搾り)」にならないように注意し、ほど良い加減でミルカーを乳頭から(無理なく)脱却させる。

 

Gミルカー脱却後直ぐに、乳頭をディピング(消毒)する。そして、次の他乳牛の搾乳を行う(また@の作業から開始する)

 

H再度、ミルカー機およびパイプラインの洗浄 

 

 以上のような流れが作業者の手で行わなければならない搾乳作業全般になります。1頭の乳牛を搾乳を行うためには、上記の7項目作業が最低限必要となってきます。凄く手間が掛るのがお分かり頂けたと思います。
搾乳ロボットは、@〜Gを、つまり乳頭洗浄・乳サンプリング・異常乳検知・ミルカー離脱を、人の手を介さず『全自動』で行ってくれる優れた機器となります。
 特にEに相当します「乳頭へのミルカー装着」は、搾乳ロボットの最重要の機能と言うべきものであり、我々人間それぞれ顔形が違うと同じように、乳牛の乳頭位置もそれぞれ違うを搾乳ロボットはセンサーで乳頭位置を検知して、ミルカーを装着する仕組みになっています。因みに、乳頭位置を探知するセンサーの種類として、「超音波センサー」「レーザーセンサー」「CCDカメラ」等があり、ロボット機種によって搭載されているセンサーが違うそうですが、優れた機種になると複数のセンサー機能を兼ね備えており、前回のミルカー装着時の位置を参照する事によって、装着時間の短縮と精度向上を図っているものもあるそうです。
 昨今のロボット搾乳に搭載されている他機能について更に記述させて頂くと、ミルクライン洗浄機能も自動化(上記H相当)、生乳中の体細胞数などの乳質を探知・記録するシステムが開発される等、様々なシステム開発が行われています。

 

 実は筆者も勉強不足で、この搾乳ロボットの事を執筆するまでは知らなかったのですが、近未来の匂いを強く窺わせる搾乳ロボットの歴史は存外古く、昭和54(1979)年に畜産試験所が世界初の自動搾乳の実証機を発表したのが嚆矢となり、1980年代になると海外の欧米諸国で開発が着手し、90年代に入ると、オランダの企業によって本格的に販売が開始され、現在では、世界で5000台以上、日本国内でも270台以上が導入・稼働されていると言われています。筆者の勝手なイメージで搾乳ロボットは、外国(欧米諸国)で開発されたもの、と思っていましたが、世界に先駆けて搾乳ロボットを開発したのが、我が国であったのが意外でした。日本独自で開発された高度な搾乳技術は、もう1つあります。それがミルカーを自動的に搬送する「キャリロボ」になります。

 

 優れた搾乳ロボットの紹介動画がございましたので、よかったらご覧ください:https://www.youtube.com/watch?v=8XHZtc3A1jc

パイプライン搾乳のミルカー運搬機「キャリロボ」

「キャリロボ」は、パイプライン(繋ぎ飼い)ミルカーでの欠点であった、ミルカーの搬送を自動化にしたシステムになり、生物系特定産業技術研究支援センター(通称:生研センター)とオリオン機械株式会社が共同開発した日本独自の技術となります。パイプライン搾乳スタイルが大幅を占める我が国に相応しい技術でもあります。
 これにより約100頭程度まで搾乳が可能となり、繋ぎ飼いスタイルで規模拡大ができる画期的な技術であり、ミルカーが天井に設置されたレール上に沿って自動で移動してゆく方式で、センサー類も搭載されているので、ミルキングパーラーと同様の高度なシステムとなっています。
 ミルキングパーラーを導入したいが、高額な費用に対応できない。繋ぎ飼い牛舎からフリーストール牛舎に改築する余裕がない。などの理由がある酪農家には、キャリロボは打って付けと言えるでしょう。

 

 以上が高度な搾乳技術の一部でした。昨今、酪農業界でも人材不足・後継者不足により、酪農従事者の離農などが問題となっていますが、将来、紹介させて頂いた搾乳技術がもっと躍進し、先述の問題解決の一翼を担ってくれることを筆者は願っています。

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