マニュアスコアとは?
人間の医療界でも「検便検査」があり、入院中にも毎朝お通じ(排泄)回数を看護師さん達が患者さんに質問する事を例にとってわかる様に、毎日出る排泄物から健康状態を確認しますが、乳牛の排便からも、その健康状態を確認する方法が採られています。寧ろ言語を通じて意思疎通が出来ない乳牛の排便チェックは、重要かつ安易な健康診断方法の1つとなります。
乳牛の排便指標は、「スコア(段階)1〜5」が設けられており、これを指標として消化器の病気の有無・牛群の現状の把握ができます。この乳牛の検便と言うべき方法を『マニュアスコア』と言います。今回はそのマニュアスコア1〜5段階から得られる各指標(情報)を紹介させて頂きたいと思います。
スコア1、極度の下痢症状。
スコア1は表題の通り、極度な液体状の糞、水様便(下痢)となります。この際の牛の状態は、消化器系の毒素(マイコトキシンなど)による病気の疑いがあるので、獣医の診断を仰ぎましょう。
この便が出る原因として考えられるのは、穀物系飼料によるタンパク質・でん粉の過剰給与がありますので、飼料のタンパクバランス調整が必要となってきます。
成牛にスコア1の下痢症状が続くと、牛体が削痩してゆき、乳量や発情に悪影響を与えますので速やかな措置が必要となります。そして授乳期間中(生後1ヶ月〜3ヶ月)の仔牛が、スコア1の症状が出た場合は要注意です。この症状が続くと脱水症を起こし、最悪の場合、死亡する事もあります。発見次第、授乳の際に電解質成分(エフィドラル)も投与しておき、それでも症状改善が見られない場合は、獣医の診断を受け、点滴治療を行ってもらいましょう。
授乳期間中の仔牛が下痢を起こすのは、明らかに脱脂粉乳の過剰給与または粉ミルクとお湯のアンバランスが主因となっていますので、給与量・粉と湯の配分量に気を付けて下さい。
スコア2、中度の下痢症状
スコア2の便模様は、円形を形成しておらず、多水分・流動系になります。この便の場合もスコア1と同様、消化器系の毒素による病気の可能性があるので、頻繁に見る場合は獣医の診断を仰いだ方が良いと思います。
発症原因として考えられるのは、飼料給与の繊維質が少なく、穀物系飼料給与が多い、つまりタンパク質の過剰給与があります。春先(牧草が生え始め)の放牧牛にスコア2の症状が見られますが、牛舎内飼育の牛に、乾草給与(繊維質)を給与せず、即濃厚飼料(穀物系)を給与してしまうと、多水分便を排泄してしまいます。よって先ず十分な繊維質(乾草・牧草)を給与した後、適量のタンパク質(穀物系・濃厚飼料)を給与するという、正しい飼料給与の順番と量が必要となってきます。
スコア3、最良の排便
スコア3の便は、極めて良好な状態であり、形は平坦状でありオートミール状の密度あります。また排便時にペタッと音がして、靴先などを突っ込んで糞が付けば良好です。硬過ぎず柔らか過ぎずのバンランス良い糞です。
このスコアを排便する牛は、飼料給与量も適量であり、胃内の栄養バランスも最良であります。管理者としては、日々牛がこの糞を排便できる飼料給与を心掛けてゆきたいものであります。
スコア4、固形状の排便
スコア4の糞は固形状であり、大型固形物と未消化の穀類が混入しています。靴先を糞に入れても付着せず、割れたりしません。とにかくやや硬めとなります。繊維質の多量給与の場合によく見られる糞です。「乳牛の産休」と言うべき乾乳期間を迎えた乳牛は肥満を防ぐため、「乾草(繊維質)多量・濃厚飼料(タンパク質、でん粉)少量」の飼料給与体制になりますので、乾乳牛はスコア4の糞を排便します。
改善点としては、第一胃のでん粉の消化率が低いので、タンパク質の飼料を増やす事が良い方法となっています。
スコア5、固いボール状の排便
スコア5の糞はとにかく非常に固く、水分は無く、大きな未消化の繊維と穀物飼料が混入しています。スコア1とは明らかに真逆な症状であり、これを排便する牛は明らかにタンパク質不足となっています。タンパクを不足しますと、泌乳量・乳質に影響を与えている可能性が大きいので、生乳内のタンパク質・脂肪分の検査が推奨されます。
先述の通り、タンパク質不足ですので、多めの穀物系飼料を給与する事が望ましいと思います。
血便にも注意、伝染病の疑い
以上は糞の形状などを指標にし、牛の状態を推し量るマニュアスコア1〜5段階の各症状などを紹介させて頂きましたが、このスコアに注意する事も大切なのですが、他にも血便の有無も注意が必要となってきます。もし血便をしている牛を見つけた場合は、オーシスト(寄生虫)によるコクシジウム病を患っている可能性がありますので、速やかに獣医の診断を仰ぎ、抗生物質治療を行う事をお勧めいたします。コクシジウム病に罹っている牛は、血便の他にも軽度の微熱・突然の食欲廃絶、そして最悪の場合、衰弱死に至る事もあります。よって速やかな治療が必要となってきます。
またコクシジウム病は伝染性が非常に強く、これを患っている牛を放置しておくと、健康体の牛にも伝染してしまうので、可能であれば罹患牛は隔離する方が良いです。また牛舎内の消毒や管理者の足消毒設備も徹底してゆきたい所です。
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