異常風味がする生乳の原因

 牛乳には本来、多くの乳成分と水分が絶妙に調和されていて、独特の甘味・旨味がある上、栄養分たっぷりの食品として、多くの人々に日々愛飲されています。しかし生乳内の脂肪分や体細胞数が、乳牛の体調や牛舎環境によって異変し、乳成分の調和が乱れた場合に、酸味などがある『生乳の異常風味』が発生します。

 

 生乳の異常風味の主因として2つありますが、1つ目は乳汁を搾る以前、つまり牛の乳房内で既に乳(乳成分)が、給餌された飼料の異臭が起因となり異常風味となるケースと、もう1つは、搾乳中・搾乳後に外から(牛舎環境の異臭など)影響が起因となり、搾られた生乳が化学変化(細菌増殖)を起こし異常風味になるケースがあります。

 

 これよりは、上記の2つの主因をもう少し詳細に掘り下げ、それらの対策を紹介させて頂きます。

給餌飼料が原因となる生乳の異常風味

 乳牛に普段から給餌している飼料が起因となり、搾られてゆく生乳の異常風味に繋がる事が、以下3つの事が考えられます。

 

@飼料の臭気が直接生乳に移行する事
 多くの酪農家さんは、出来るだけ飼料代を抑えるため牧草やコーンを自家栽培し、それらを収穫後、発酵飼料・サイレージに作り変えます。サイレージは、乳酸菌によって収穫した牧草やコーンを発酵させる事によって、飼料の腐敗の主因となるカビの増殖を抑え長期保存が可能となる上、カルボン酸などの有機酸が豊富となるため牛体の肥育に大いに役立つ利点があります。しかし、このカルボン酸は本来、強い悪臭をもつ成分でもあるので、それが豊富に含まれるサイレージは独特の異臭があります。一言で述べれば、「腐敗臭が強い食酢・ヨーグルトの様な臭い」があります。

 

 先述の如く、保存が効き、栄養価が高く、異臭が強いサイレージですが、普段からそれを食している乳牛から搾られる生乳に異臭成分が移行してしまう事あります。

 

A反芻時に呼吸器から異臭が吸収されるがある事
 先の飼料からの異臭や消化管内で発した異臭が、肺から吸収されて、それが生乳の原料となる血液に移行してしまう場合があります。二次発酵・異常発酵したサイレージ・粕類飼料、臭気の強い植物を乳牛に給餌すると生乳の異常風味に繋がります。また消化管内での異臭発生は、濃厚飼料の過重給与によって起こる第一胃(ルーメン)の異常発酵が原因となりますので、ここでもやはり乳牛への飼料バランスが重要になってきます。

 

B飼料中の異臭成分が消化吸収され、血液を通して生乳に移行される事
 強い臭気を持ち、揮発性が低いニラ・ニンニク、玉ネギなどの植物を乳牛に給与してしまうと、臭気が消化器から体内に吸収され、血液にも通り、生乳にも臭気が移ってしまう場合があります。
また悪い事に、上記の植物の強い臭気は、乳牛の体内に一度吸収されてしまうと、体外へ排出すること事も困難なので、半日以上も生乳に臭気が顕われる場合もあります。

 

*上記@〜Bの対策:「事故が起こる前に、それを未然に防ぐ対策を採る」という言葉がある通り、生乳の異常風味と思われる飼料の給餌を止めるか、少なくとも搾乳前に給与するのを控える事が肝要になってきます。実際、サイレージから乾草に変更している酪農家さんのケースも見受けられます。

牛舎環境が原因となる生乳の異常風味

次は牛舎内にある臭気が原因となり、生乳の異常風味になる事について紹介させて頂きます。

 

生乳が牛舎内の臭気によって異常風味になってしまう過程として、「牛舎内臭気が直接生乳に移行する」「牛舎内臭気が牛の呼吸器を通じて、牛体内に入ってから生乳に移行する」という2点があります。一般の方々で、牛舎へ入られたことがある方は、舎内には独特な臭気があるのをお感じになられたと思いますが、その舎内の臭気と起因となるものは、以下の通りです。

 

@糞尿からの臭気
 牛舎内の臭気の第一の原因は、やはりこれになります。排泄直後の糞尿からの臭気もかなり手強いものですが、放置堆積され、発酵(腐熱)途中の糞尿から発生する臭気(アンモニア・硫化水素など)も相当強いです。

 

A舎内に置いてある飼料から発生する臭気
 これは先にも紹介させて頂きましたが、発酵飼料のサイレージや異常発酵(腐敗)した飼料全般からの臭気となります。

 

B舎内で利用した薬剤からの臭気

 

Cその他の臭気
 舎内に付着した汚れ(カビや糞尿が付着した床壁など)の臭気、牛舎内外で利用したペンキ(シンナー臭)やオイルなどから発生する臭気があります。

 

*上記@ACの対策:糞尿は頻繁に搬出する事を心掛け、特に搾乳前は、必ず糞尿の搬出を行った方がいいでしょう。また異常発酵した飼料は速やかに処分し、臭気が強い飼料(サイレージ)は、牛舎内に置くこと止め、他の保管場所のスペースをつくる事が大切になります。

 

*Bの対策:しばしば乳房炎に罹患した乳牛に対して、乳房・乳頭に直接塗布する消炎鎮静軟膏薬剤(商品名:クラーゲンネオやアダガード軟膏など)を利用する場合がありますが、この薬品は湿布剤と同じ役割を果たしているので、市販されている外用薬湿布から出る独特の臭気(メントールやカンフルから発する臭い)を持っていますので、塗布した乳房を搾乳する場合は、生乳に薬剤自体やその臭気が混入しない様に、よく乳房・乳頭を拭き、塗布された薬剤を取り除く注意が必要となってきます。

 

 何れにせよ、牛舎内に臭気が籠らない様に、『季節を問わず、十分な換気をする事』が重要になってきます。

搾乳中・貯蔵中に起こる生乳の異常風味

 これまで「給与飼料」「牛舎環境」が起因となり、生乳の異常風味になる事について紹介させて頂きましたが、今度は、搾乳中・貯蔵中に起こる生乳の異常風味について紹介させて頂きます。

 

@搾乳中および搾乳直後の生乳に、牛舎内の臭気や搾乳器具に付着した臭気が移り、異常風味になる場合。
 ミルカーの装着および落下時の折に、ミルカー(ライナーゴム部)から多量の空気を吸ってしまい、生乳に舎内臭気が移ってしまう可能性があります。

 

A搾乳後に生乳の脂肪が分解され、異常風味になる場合。
 生乳を冷却貯蔵するバルククーラーは、均一に生乳を冷却するためと、生乳中の乳脂肪や乳成分バランスを保つために撹拌翼があり、一定速度で生乳を撹拌しながら冷却しますが、もしバルククーラーなどの不調などが原因によって、生乳が激しく撹拌されたり、人力などで激しく生乳を掻き雑ぜたりすると、乳脂肪が分解され、遊離脂肪酸が生成、生乳の異常風味になります。生乳が激しくかき乱される事に生成される遊離脂肪酸とは、生乳からチーズを作る場合に重要な成分となりますが、貯蔵中の生乳に生成されると、乳飲料として出荷不可能となるので、厄介な成分となります。

 

*@Aの対策:搾乳中は、ミルカーで無闇に空気を吸わないように、装着時には、ライナーゴム部をしっかり折り曲げながら、乳牛の乳頭に装着する事を心掛け、バルククーラー内に冷却貯蔵されている生乳での無用な撹拌(刺激)行為は避ける事も重要になります。

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