我々が普段から飲食している牛乳。当然、『殺菌』および加工措置が施されています。
今更ですが、牛乳は何故殺菌処理されるのか?という単純な事を自問自答すると、それは『全ての病原菌の死滅と、多くの腐敗・変敗菌の死滅あるいは菌数減少』を目的としているからであります。皆様ご存知な事は至極当然であり、ちゃんと法令にも以下の通り定められています。
 牛乳(生乳)を飲食目的で消費する場合は、特別牛乳を除き、乳を食品衛生法の乳等省令(正式名称:乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)で必ず殺菌する事が義務付けられています。乳等省令内にある「乳等の殺菌基準」には、『摂氏63度で30 分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること』と規定付けられています。

 

 牛乳殺菌が法令で定められた経緯を見てゆくと、昭和8年に内務省令の牛乳営業取締規則において牛乳の殺菌方法が制定され、「低温殺菌方法(摂氏62度〜65度において30分間加熱)」または「高温殺菌方法(摂氏95度以上において20分間加熱)」が義務付けられたのが、初の牛乳殺菌義務化になります。その後、食品衛生法の施行により、牛乳営業取締規則は廃止され、昭和26年に公布された乳等省令で、牛乳殺菌方法として、「摂氏62度〜65度の間で30分間加熱する方法」、あるいは「摂氏75度以上で15分間加熱する方法」に改定されました。そして、摂氏62度/30分の殺菌方法では、熱抵抗性が強い結核菌とQ熱病原体(コクシエラ菌)が死滅しない可能性が懸念され、先述の『摂氏63度で30分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること』というのは、平成14年から改定されています。

 

 上記まで牛乳の殺菌目的・牛乳殺菌が辿った経緯を紹介させて頂きましたが、これからは今記事の表題にある『牛乳に用いられる様々な殺菌方法』について紹介させて頂きます。現在では、主に『低温保持殺菌法』・『高温短時間殺菌法』『高温保持殺菌法』『超高温処理殺菌法』の4つの方法がありますので、それを順繰りに述べさせて頂きます。

『低温保持(LTLT)殺菌法』について

低温保持(LTLT)殺菌法は、「摂氏62度〜65度、30分間加熱」によって「低温で長い時間をかけて牛乳殺菌する(Low Temperature Long Time、つまりLTLT)」方法となり、これが基本的な牛乳殺菌方法となっています。これを素とした(同等以上の)殺菌効果を有する幾つかの殺菌方法も開発されました。
 低温保持殺菌法は、日本では大正末期〜昭和初期にかけて主に導入されていましたが、現在では、殺菌技術が進歩したことにより、他の殺菌方法(詳細は後述)が採用されており、低温保持殺菌牛乳は全体牛乳流通のの約2%のみと言われています。しかし、低温でじっくりと殺菌するので、高温で牛乳を殺菌する他の方法よりも牛乳の良き風味を損なわれない、という事で一部では根強い人気があります。

 

 低温保持殺菌の基本方法として、生乳(原料)を二重構造の円筒型タンクに入れ、常時攪拌しなががら加熱・冷却する方式が基本形となっています。所定の温度まで加熱するのに長時間を要し、作業能率が良くないので、小規模の牛乳製造向けの殺菌法とも言われています。

『高温短時間(HTST)殺菌法』について

 高温短時間(HTST)殺菌法は、「摂氏72度〜75度、15秒以上加熱」によって、「高温・短時間で牛乳殺菌する(High Temperature Short Time、HTST)」方法になります。
プレート式熱交換器を利用し、加熱と冷却が効率良く連続的に行われて、能率を飛躍的に向上させた殺菌方法であり、先述の低温保持殺菌と同等の殺菌効果も有すると言われています。また、大量の殺菌処理能力がある上、完全密閉式なので、牛乳が空気に触れることが無いので、衛生管理面で優れています。
 上記の優れた殺菌能力により、欧米諸国で一般化され、日本でも昭和27年に導入され、急速に普及しました。

『高温保持(HTLT)殺菌法』について

続いて高温保持殺菌法についてですが、「摂氏75度以上で15分以上加熱」によって、「高温で長い時間をかけて牛乳殺菌する(High Temperature Long Time, HTLT)」方法になります。先述の高温短時間殺菌法を、より深化させ高温かつ長時間に牛乳殺菌を行う方法となっていますが、現在では後述の『超高温処理殺菌法』が主流となっています。

『超高温処理(UHT)殺菌法』について

 最後に紹介させて頂く殺菌法として、超高温処理殺菌法がありますが、「摂氏120度〜150度、1〜5秒加熱」によって、「摂氏100度以上の超高温で、数秒という一瞬のみ牛乳殺菌処理する(Ultra High temperature Treatment、UHT)」方法となり、現在、日本での牛乳殺菌の主流となっています。昭和中期から国内の牛乳消費拡大に伴って、高温短時間殺菌法よりより洗練された殺菌法として、昭和32年に導入され現在に至っています。

 

 超高温処理殺菌法には、「間接加熱法」「直接加熱法」の2種類があります。

 

@「間接式」は、牛乳と加熱媒体(プレート式)は隔壁を介して熱交換により加熱され殺菌される方法となります。下記の「直接式」よりはコスト安と言われています。

 

A「直接式」は、牛乳の中に加圧蒸気を吹き込む方式(スチーム・インジェクション式)と、蒸気が充満した容器の中に牛乳を噴射する方式(スチーム・インフュージョン式)になります。直接式は、牛乳の加熱と冷却が極めて急速に行われる事が特徴となり、更に加熱部表面への乳汁中のタンパク質の沈着が少なく、間接式より長時間運転が可能と言われています。しかし、これだけの優れた殺菌処理能力を有する機器が必要となってきますので、投資・ランニングコストが(間接式に比べ)割高になります。

 

 因みに超高温処理殺菌法は、牛乳などの乳製品・加工乳のみの殺菌ならず、清涼飲料水・ミネラルウォーター・粉末食品・香辛料などといった幅広い食品の殺菌方法としても利用されています。

 

如何でしたでしょうか?普段、皆様がお飲みになられている牛乳には、様々な殺菌処理方法があったのです。これが施行されているからこそ、我々消費者は牛乳を安心して飲めるのですね。もし良かったら、これを覚えて頂き、明日にでも牛乳をお飲みになってみて下さいませ。