酪農教育ファームとは?
現在の小中学校の課外(特別)授業では、修学旅行や会社見学・職場体験授業、引いては夏休みなどの長期休暇を利用して行われる林間学校などが著名ですが、皆様は、前記の課外授業以外にも『酪農教育ファーム』というものがあるのはご存知でしょうか?名前をご覧になれば想像が付くと思いますが、一言で述べますと「小学生の皆さんが牧場へ行って、乳牛の世話や乳しぼり・バター作りなどの体験学習をしてもらい、食といのちの事を学んでもらう」というものです。時には逆に、酪農家さん達が小学校に、乳牛や仔牛を伴って訪れることもあります。出前教室の様な感じです。
ある意味では、山野を駆け巡って、魚獲りや昆虫捕り、木工などを体験学習する林間学校に少し似ている点があります。ただ両者の違いは、林間学校では、たき火を使って自炊をしたり、魚や昆虫を相手にして、アウトドア活動の愉しさを主に学びますが、酪農教育ファームでは、牛を相手にして「食」と「いのち」についての重要性を学ぶという事です。
酪農教育ファームを平成10年7月に立ち上げ現在も運営しているのは、一般社団法人中央酪農会議(昭和37年に設立)という全国酪農機関(全農や酪農組合等)に設立された酪農指導団体です。中央酪農会議の主な活動内容として、生乳計画の立案・乳製品利用促進事業、放射線物質・風評被害対策という大掛かりな活動等も行っておりますが、中には地域実践支援事業という親近感ある活動もあります。中央酪農会議さんの公式ホームページに、その支援事業の中に酪農教育ファームについて述べられています。
@『酪農教育ファーム活動は、酪農の価値や酪農家の生き方を直接伝えるとともに、社会貢献活動として酪農の存在意義を再認識させる活動として推進してゆく。また地域で存続していくために、酪農家自ら実践する牧場を核にした消費者コニュニケーション活動に対する支援を行う。』(中央酪農会議ホームページ 事業項目より抜粋)
A教育現場と酪農現場の各々状況による酪農教育ファームの必要性
教育現場:子供達の豊かな心を育む「心の教育」や「生命の尊さ」を学ぶ『生命の教育』に対する関心が高まり、児童達に「生きる力」に重点に置いた、地域と一体になった教育が必要になる。
酪農現場:食品市場の自由化など厳しい経済環境の下、安定的な生乳生産を行い、牧場を発展させてゆくには、牛乳製品の価値・牧場の必要性を国民に理解・支持してもらう事が重要である。
この教育現場・酪農現場の2つの状況と想いが合わさり、酪農教育ファームが誕生した。(中央酪農会議ホームページ 酪農教育ファーム活動の概要 参照)
以上の2つが、酪農教育ファームの活動根幹理念となり、平成10年から開始され、現在も教育現場と酪農現場が協力し合って活動しております。
酪農教育ファームの取り組み
中央酪農会議の酪農教育ファーム公式ホームページに拠ると、平成26年時点で、酪農教育ファームに認証されいる農家及び牧場は、全国で294軒、それらの牧場で教育ファームが実施された際に、体験学習の監督を務めるファシリテーターは574人。
ファシリテーターは、各認証牧場から、専門的に2年以上の酪農実務経験のある最低1名、必ず選出されなければいけない決まりになっております。またファシリテーターに認証された後は、3年毎に酪農教育ファームが主催するファシリテーター資質向上研修会に参加し、ファシリテーター資格を更新してゆくことになっております。
肝心の酪農教育ファームの参加人数ですが、これも酪農教育ファーム公式ホームページからの引用になりますが、平成15年では全国で23万人であったのが、平成25年では53万人まで増加しました。因みに最高参加人数が平成21年の88万人であり、最低参加人数は平成22年の42万人です。この年は、宮崎県で発生した口蹄疫問題があった年で、衛生・防疫面を考慮した酪農現場が緊縮したのが原因です。(以上、酪農教育ファーム公式ホームページを参照)
平成21年をピークに参加者人数は減少しておりますが、それでも平成25年時点でも53万人の人達が全国で参加しています。最近では、大学・大学院の教授・学生さんも酪農教育ファームとそれに参加する子供達を研究対象としておられる方もいらしゃいます。大学の研究対象になるくらい、教育現場の専門家の方から注目されていると言っても過言ではないと思います。
最近まで酪農現場に勤務し、一人のファシリテーター経験者である筆者の立場から申し上げさせて頂くと、もっと酪農教育ファームが更に発展することを望んでいます。
各々の酪農現場のシフト上の都合や、不特定多数の人々(子供達)を入れる事で、教育現場の協力を得つつ、衛生や防疫面の問題に気を付けなければいけない事項がありますが、これから将来を担う子供達の教育の一端を担うことができる上に、先に述べた酪農教育ファームの根幹理念の1つである、消費者との円滑な会話ができます。
そして何よりも、参加者の子供達は凄く喜んでくれますし、その子供達に牛の事、酪農の生活を話して教える事によって、酪農現場に携わる自分が、見落としていた事柄や基本的な事を気付かせてくれたり、改めて学び直すことも多々あります。
『人に教える事ほど、勉強になることはない』とマネジメントの父と名高い経営学者のピーター・ドラッカー氏(1909〜2005)が言い遺し、また中国の慣用句(出典:詩経)に「他山の石を以って玉を攻(みが)く」(自分より若輩な人間の言行にも、自分の知識を磨く助けになる例え)がありますが、これらは正に筆者が酪農教育ファームで、酪農に関して無知に近い子供達に話して教えることによって経験した事柄です。
酪農現場及び現役ファシリテーターの皆様には、今後もご自身の負荷が過重にならない範疇で、教育現場と協力しつつ酪農教育ファームの発展に貢献して頂きたいと、元・ファシリテーターの筆者は〜細やかではありますが〜望んでおります。