乳牛の住民票?「個体識別番号」
先日、筆者の野暮用で、「住民票」と「戸籍謄本」が必要となり、役所へ行きました。かなり以前、あるバラエティトーク番組を見ていた時に、現在でも歌手や相撲評論家としてご活躍されているマルチタレント・デーモン閣下がご出演しており、『吾輩も、世の仮の姿(つまりノーメーク状態、素の姿)になって、役所へ行き、住民票を取りに行くこともあるよ。でないと、生活できないもの!』と発言し、周囲の爆笑を誘っている場面がありました。閣下のような紀元前生まれ?を自称している大人物や、筆者やこの記事をお読み下さっている皆様も、(彼が言うように)、この世の中を生きている以上は、必ず1度は役所へ赴き、費用を支払い、住民票などをもらう行為は不可欠であります。
乳牛の世界では、住民票や戸籍謄本と言うべき代物があるのか?勿論ございます。我々人間が管理している以上、食物を提供してくれる牛などの家畜動物にも管理システムがございます。に別記事で「乳牛の血統登録」について紹介させて頂きましたが、血統登録事業によって記録される登録証明書は、乳牛の血筋が記されていますので、人間の世界で比喩すると、「原戸籍」と「戸籍謄本」になると思います。
乳牛の住民票に相当するのが、『個体識別番号』となります。人間と違うのは、人は、其々の姓名で住民登録されていますが、乳牛の場合、文字通り、其々の個体番号によって、牛個体の生年月日、母牛番号・飼養者氏名・所在地などがデータ登録されます。
「番号で管理する」という意味では、我々住民票を有する日本国民が、2015(平成27)年10月から通知され始めた12桁の数字から成る「個人番号(通称:マイナンバー)制度」と酷似していると言えるかもしれません。因みに乳牛の個体番号は10桁の数字で構成されています。
個体番号を管理する機関と耳標
日本国内で飼養されている全ての生体牛(乳牛・肉牛)は、国産牛・輸入牛問わず、10桁から成る個体識別番号が振り分けられ、その個体番号によって国内の飼養牛の来歴・経歴は、農林水産省から業務委託されている独立社団法人・家畜改良センター(所在地:福島県)によって管理されます。
先述の如く、国内で、誕生・飼養されている乳用・肉用の牛は、全て10桁の個体識別番号によって、各々の生産者と家畜改良センターに管理されますが、その番号は、牛の両耳に装着する『耳標(じひょう・別名:耳タグ)』に記入されており、この標識を生産者が、分娩や購入などで入手した新規牛個体の耳に取り付けます。
生産者が手元で、飼養している牛に耳標を装着する事は、家畜改良センターより義務付けられていますが、生産者自身も、様々な管理面で、外見では判別が困難な牛たちを、両耳に付いている其々の個体番号(耳標)を一目で識別できる利点を持っています。もっとも、管理者の怠慢で、定期的に耳標を綺麗にしておかないと、普段の埃(特に飛び散った糞尿)などが頑固に付着し、肝心の個体番号を覆い隠し、一目で番号確認が出来ないという面倒なケースもよくあります。これは何を隠そう、筆者が牧場勤務時代に、自業自得によって頻繁に引き起こした経験談でございます。
生産者は、入手した新規牛個体に「耳標」を取り付ける義務を果たすと共に、更に家畜改良センターには『届出』もしなくてはなりません。即ち、分娩で仔牛が誕生したなら『出生報告』、他所から牛個体の購入や導入した場合は『転入報告(逆の場合は転出)』、飼養していた牛が運悪く死亡した場合は『死亡報告』、といった上記の発生状況に応じて報告をする事も義務付けられています。
我々も役所に子供が誕生した場合は「出生届」、引っ越しした場合は「転出入」など、様々な届出を役所で行いますが、牛の場合も同様で、牛の家畜役所の責務は家畜改良センターが担っています。
因みに、生産者が万一、自分が飼養している牛の耳標装着や「出生などの届出」の義務を怠った場合は、日頃の管理にも大きな支障を来し、未届出の牛が産出した牛乳や肉の出荷販売は許されません。また耳標は、牛の両耳に装着されるのが義務付けされていますので、未装着や片耳のみ装着状態では、他所への運搬(出荷)も禁止されています。
記事の冒頭で、マルチタレントのデーモン閣下の『吾輩も住民票を取りに行くよ。でないと生活できないもん!』と、テレビで発言した挿話を紹介させて頂きましたが、この事は人間世界に関わらず、牛の世界でも十分当てはまる事なのであります。
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