乳牛の大敵・伝染病の数々
以前執筆致しました「乳牛を脅かす伝染病とは?」という記事で、乳牛(家畜動物)が罹患する伝染症には、『家畜伝染病』『届出伝染病』の2つがあり、それらを併せて「監視伝染病」と呼称されるという事や、伝染病から家畜動物を護るための家畜伝染予防法について、少し紹介させて頂きました。
上記の内容に続編であり、月並みの内容になって恐縮なのですが、今回の記事では、主な「家畜伝染病・届出伝染病の両病名」と「それらの症状」について紹介してゆきたいと思います。病名と症状を箇条書き様な形で列挙してゆくつもりでありますが、中には社会問題にまで発展した伝染病も登場してきますので、ご興味が惹かれる読者様に読んで頂けば幸いでございます。
家畜伝染病の種類と其々の症状
*前回の記事の重複となりますが、『家畜伝染病』を簡潔に述べさせて頂くと、「(伝染病)発生による蔓延を防止するため、殺処分等の強力な措置を講ずる必要があるもの』という家畜産業界を脅かす非常に強力で厄介な伝染病となります。それらが以下の通りでございます。
@口蹄疫(英語名:foot-and-mouth disease)
通称:FMD。牛・豚・羊・鹿・猪などの蹄が偶数に割れている動物(偶蹄目)が口蹄疫ウィルスによって罹患する伝染病となります。2010年3月〜同年7月まで宮崎県で猛威を振るった伝染病であり、遂には大きな経済損失・社会問題にまで発展しましたので、皆様の記憶が新しいのではないでしょうか?
感染した動物は、高熱を発し、元気が消沈、舌や口中、蹄の付け根など部位に『水疱』が形成され、それが破裂して傷口になったりします。先述のように、英語名で、「足と口の疫病」と呼ばれていますが、正に『口蹄疫』です。家畜の伝染病の中では最も伝染力の強い疾病でもあり、感染動物の排泄物や分泌物を介して、凄まじいウィルス粒子(豚の場合、4億個のウィルス粒子と言われる)が伝播し、他の非感染動物に感染します。
口蹄疫は、致死感染病ではありませんが、本病に対しては有効な治療方法や薬品は無い上、前記の通り、強力な感染力を持っていますので、罹患した家畜動物が発見された場合は、その動物は勿論の事、同じ畜舎に飼われる家畜も全て速やかに殺処分されることが、家畜伝染予防法にて決められています。
A牛疫(ぎゅうえき)
牛疫ウィルスが起因となり、牛・豚・山羊・緬羊など偶蹄目動物に感染します。口蹄疫と同じく、感染およびその疑いがある対象動物は、即殺処分となる事が、家畜伝染病予防法で決められています。
病名にある通り、主に牛や水牛に感染し易く、症状は、突然の高熱・食欲減退・鼻水・口内炎・下痢を起こし、それによって脱水症状に起立不能となります。致死性が高い感染病であり、感染した動物は、約1週間後に死亡する確率が高いです。
B牛ヨーネ病
ヨーネ菌を感染源として慢性肉芽腫性腸炎を起こしますが、対象として、牛や羊などの反芻動物となります。分娩後数週間で発症する事例が多くあり、症状として、慢性的な下痢・泌乳量の低下が顕著になり、発症数ヶ月で感染動物は死亡します。基本的に、感染動物は治療は行われず、殺処分となります。
宮崎県の場合では、24ヶ月以上の乳牛・肉牛は、5年に1回、ヨーネ病の採血検査が義務付けられており、獣医師(家畜保健所)によって執り行われております。
届出伝染病の代表例
@牛白血病
人間にとっても、生命の危険に晒される「白血病」。牛にも白血病があり、牛白血病ウイルスによって原因によって発症する伝染病となり、「地方病性牛白血病」と「散発性牛白血病」の2種に分類されます。感染経路は様々なあり、白血病に感染した牛の血を吸ったサイバエや消毒不十分な注射針を媒体として、他の牛に感染するのが主な感染経路となっています。
人間が「白血病」と聞いたら、直ぐに死病というイメージが拭い切れぬ点がありますが、牛白血病の場合は、殆ど無症状であり、乳牛の場合は、一生発症する事なく役目を終え、淘汰される事があります。運悪く発症した場合は、数年の潜伏期を経て、元気消失、食欲不振、下痢の症状が顕れ、数週間で死亡します。
筆者の経験では、以前勤務していた観光牧場で、お客様に体験して頂く「乳搾り」で活躍してくれていた素晴らしい乳牛が1頭いましたが、その彼女(愛着を込めて筆者は呼んでいました)が、分娩直後に起立不可となってので、低カルシウム症(ダウナー症候群)と思いましたし、現に獣医師もそう診断し、その治療を約1週間続けました。しかし、結果は改善されず、断腸の思いで、彼女を業者にお願いして屠畜処分としたのですが、屠畜場で彼女が白血病に感染、発症しておりました。決して産後の肥立ちが悪かったのではなく、白血病で起立不可となっていたのです。因みに白血病感染肉は、全部廃棄となります。
人間も白血病に罹患してしまうと、治療はとても困難である事は容易に察しが付きますが、牛白血病は治療法は皆無であり、上記の様に発症した場合は殺処分しかありません。
他にもアカバエ病・ブルータング(共に牛・羊などの偶蹄目が対象)、馬では馬インフルエンザなどがあります。
以上、「家畜伝染病」と「届出伝染病」について若干紹介させて頂きましたが、次の機会では「人畜共通の伝染病」について紹介させて頂きます。
関連ページ
- こんなにたくさんいる乳牛の種類
- 牛の4つの胃袋、実はその内3つは胃袋ではなかった?
- 牛はなぜ、涼しい場所で飼われているか
- 乳牛のエサの種類と食事量
- 牛乳ができるまで
- 乳牛の口の中の正体
- 乳牛のライフサイクル(誕生〜分娩まで)
- 乳牛にも産休がある?
- 乳牛が患う病気とは
- 酪農に使われる道具とは
- 乳牛の乳房の中身
- 牛乳はこの様にして搾られる
- 乳牛の生活とその社会
- 乳牛の体重測定・BCS
- 乳牛にも整形手術はある
- 獣医師の仕事内容
- 獣医師が使う7つの道具
- 乳牛の管理システム・牛群検定とは
- 乳牛の肉利用について
- 乳牛の1日の生活スタイル
- 乳牛のマニュア(ふん)スコアとは?
- 牛乳の価値を決める乳質とは?
- 牛の漢方医学のハンドブック「牛書」とは?
- 「牛書」から診る牛の起立不可の病気とその対策
- 「牛書」から見る病気26番「ツクヒ」とは?
- 良質な牛乳が備える条件
- 異常風味がする生乳の原因と対策
- 牛にも鍼灸治療がある!
- 乳牛の血統登録
- 乳牛にも原戸籍と住民票がある
- ホルスタインの起源
- 乳牛を脅かす伝染病とは?
- 牛の情報管理「牛トレーサビリティ法」とは?
- 人にも感染する家畜伝染症がある
- ジャージー牛の成り立ちを辿る
- 搾乳作業の変移
- ミルカー(搾乳機)の歴史とその技術進化
- パイプライン搾乳の登場
- 様々なタイプがある搾乳方法(パーラー)
- 様々なミルキングパーラーの種類
- 日本での搾乳機器進化の道程
- 高度な搾乳技術の誕生・搾乳ロボットなど
- 仔牛にも代用乳がある
- 牛の居住区・牛舎の種類と特徴
- 仔牛専用のお家・カーフハッチとは?
- 牛を放牧(放し飼い)をする理由とは?