皆様、牛が飼育されている牧場や広場をイメージされると、「涼しい高原」「雄大な大地を有する北海道」や「マイナスイオンたっぷりの環境」を思い浮かばれる方が、大勢いらっしゃるのではないでしょうか。勿論、平野部や都市郊外でも牛を飼育されていますが、ほんの一部であるのが現状でございます。
下記に、都道府県別乳牛飼育頭数ランキングベスト10を挙げてみました。
都道府県別乳牛飼育頭数ランキングベスト10
全国 1,395,000頭 (参照:平成26年農林水産省 畜産統計データ)
ご覧の通り、北海道が圧巻の第1位です。北関東地方では、2位:栃木県・5位:群馬県・8位:茨城県が入り、東北地方では、2位:岩手県・9位:宮城県がランクインとなっております。北海道〜東北地方・北関東地方は、大別すれば北東日本に位置している場所に、乳牛は飼育されています。その一番の理由は、実は至って簡単であり、一言で言い表すことが出来ます。
牛は、高温多湿の場所が苦手だからであります!
何故、高温多湿が苦手であるかと申しますと・・・
牛の平均体温(平熱)が、38.5℃〜39.0℃と、人間に比べると高いからです!(人間では、インフルエンザ並の高熱です)
特に、乳牛の主力であるホルスタイン種は、特に暑いのが大苦手で、夏季なると頻繁に夏バテを起こしてしまいます(その反面、ジャージー牛は、少し耐暑性に優れています)。だから、標高が高く、清涼地が揃っている、北海道・東北・北関東で全国乳牛頭数の約65%の乳牛が飼育されているのです。
圧巻の1位である北海道の場合は、牛の上記の牛の生態条件、地理的条件も関わっていますが、歴史的条件も大きく関わっています。
江戸時代まで、アイヌ民族の少数の人々などが棲み、人口少なく手付かずの未開地が無尽蔵に広がっており、牧場や農場の新規開拓が容易であったことが大きな理由の一つです。実際、明治時代になり、新政府奨励の下、国防政策(ロシアに対して)を兼ねて、北海道開拓が急速に進んでいきました。日本の近代家畜および競走馬育成の基礎を築いた、米国人・エドウィン・ダン(1848〜1931)や「少年よ、大志を抱け」という名言で有名なウィリアム・クラーク(1826〜1886)は、明治時代前期の活発な開拓期に来日し、北海道の開拓、引いては日本の近代酪農(畜産)の発展に大きく貢献しました。
★余話として:2位の栃木県は、那須高原・塩原高原を中心に乳牛をはじめ、他にも乗用馬や羊、更には人気のアルパカなど多種類の家畜や動物が飼育されおり、3位の岩手県も、有名な小岩井を中心に大規模な牧場が営まれています。唯一西日本で、10位以内に入った、4位の熊本県では、阿蘇山の麓に拡がる高原を中心に牧場があります。
筆者が注目したいのは、南関東地方で6位に入った千葉県です。意外な印象があるかもしれませんが、千葉県と古い時代から酪農は深い関わりを持っています。主に古来より馬牧場が多数存在し、江戸時代には、幕府直営の馬・牛牧場があり、時代劇で有名な8代将軍・徳川吉宗の命令で乳牛(白牛)を飼育されていた記録もあり、明治時代に入って、海外から近代酪農技術を、最初に導入・実験されたのは、千葉県にある牧場からでした。拠って近代酪農の発祥地は、北海道ではなく、千葉県なのです。更に後年、第42代内閣総理大臣の鈴木貫太郎(1868〜1948)も、総理辞任後、酪農と千葉県の深い関わり着目し、酪農振興に尽力しました。
首都圏内で、酪農をはじめ近郊野菜露地栽培が盛んな千葉県は、正に関東随一の食糧生産地帯と言えるでしょう。
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