「家畜伝染病」と「届出伝染病」、そして『監視伝染病』とは?
前回の記事(乳牛が患う病気)で、乳房炎・起立不可・食欲不振(食滞)の3つの乳牛疾病を紹介させて頂きましたが、今回はそれ以外にも存在する乳牛を脅かす疾病「伝染病」について紹介させて頂きます。
人間の世界にも生命を脅かす恐ろしい伝染病(結核など)がありますが、乳牛を含める家畜全般にも勿論、数多くの恐ろしい伝染病が存在しています。家畜動物の伝染病は、家畜伝染予防法(昭和26年に制定)に基づき、「2つ」に大別され、其々の疾病の症状によって、どちらかの伝染病部類に入ります。
2つに分類される其々の伝染病名と解説が、「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(通称:農研機構)」内の動物衛生研究部門がWeb上に公表している『家畜疾病図鑑Web』に、解り易く掲載されていますので、以下の通り転用および参考させて頂きます。
@「家畜伝染病」とは?・・・乳牛が罹患する主な病名:口蹄疫・狂犬病・牛疫・結核病・牛肺疫など
『家畜の伝染性疾病のうち、その病性、発生状況、予防・治療法の有無、畜産情勢等を勘案し、発生による蔓延を防止するため、殺処分等の強力な措置を講ずる必要があるものを家畜伝染病(法定伝染病)として「28疾病」が指定されています。この場合、指定されている伝染性疾病であってそれぞれの対象となる家畜についてのものだけが家畜伝染病(法定伝染病)となります。』
(文章転用元:家畜疾病図鑑web:http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_dictionary/index.html)
こちらの伝染病は、国内の畜産業に甚大な障害・被害を及ぼす疾病ばかりですので、強力な蔓延防止措置として、罹患した対象家畜動物およびその敷地内(場合よっては地域)で飼育されている同類家畜動物は「殺処分」が行われます。
平成22年4月に宮崎県で発生し、県内の畜産業(乳牛・肉牛・養豚)に多大な被害をもたらした「口蹄疫」や、牛関連ではありませんが、現在(平成28年末から29年初頭)でも、家禽産業を脅かし続けている「高病原性鳥インフルエンザ」などは全て、家畜伝染病に指定されています。また狂犬病といった人畜共通の伝染病も該当しています。
万一、飼養家畜動物が家畜伝染病に罹患した(疑いがある時も含める)場合は、飼養者(所有者)は、速やかに担当獣医師(家畜保健所)に連絡し、家畜伝染病蔓延の防止措置を効果的に実施しなくてはいけません。また「家畜伝染病予防法第13条(獣医師の患畜等の届出義務)」に基づき、獣医師または所有者は、罹患した家畜動物についての詳細を、管轄の都道府県知事(家畜保健所所長)に、文書または口頭によって届出する義務が課せられています。もし、獣医師や所有者が先述の届出義務を怠った場合は、法令違反として罰則が科せられます。
A「届出伝染病」とは?・・・乳牛が罹患する主な病名:アカバネ病・牛白血病・破傷風・牛ウイルス性下痢など
『家畜伝染病(法定伝染病)のように強力な措置を講ずる必要はないものの、家畜伝染病(法定伝染病)との類症鑑別上問題となりやすい疾病や行政機関が早期に疾病の発生を把握し、その被害を防止することが必要な家畜伝染病(法定伝染病)に準じる重要な伝染性疾病を届出伝染病として「71疾病」が指定されています。』
(文章転用元:家畜疾病図鑑web:http://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_dictionary/index.html)
上記の如く、@に比べ、こちらの「届出伝染病」は若干軽い扱いとなっていますが、やはり伝染病である事は間違いありません。拠って「家畜伝染病予防法第4条(獣医師の疾病の届出義務)」に基づき、獣医師は届出伝染病についてその早期発見、初期防疫の徹底に努めるために、(家畜動物が届出伝染病に罹患した場合は)、管轄の都道府県知事に届け出る義務が課せられています。
そして、@Aの伝染性疾病を総称して『監視伝染病』と言われ、管轄内を所在地とする家畜動物が、上記2つ何れかの疾病で死亡した際は、都道府県知事は様々な措置命令を下す事が可能となっています。(家畜伝染病予防法第5条〜第7条、第9条)
家畜動物所有者が、@A以外の疾病に罹患した(疑いある場合も含める)家畜動物を発見した場合も速やかに獣医師に報告し、診断を仰がなくてはいけません。またそれが全く新しい疾病(新疾病)だと判明した際にも、獣医師は管轄の都道府県知事に届け出る義務が課せられています。(家畜伝染病予防法第4条の2)
以上、長々と乳牛、というより家畜動物を脅かす伝染病について紹介させて頂きました。これらから大切な家畜を護るために、昭和26年に家畜伝染病予防法が施行されましたが、時代が経つに連れて、続々と新しい家畜えを脅かす疾病(口蹄疫や鳥インフルエンザが好例)が出現するようなってきたので、その都度、法改正などが行われて現在に至っています。
今記事では、家畜動物に罹患する伝染性疾病の概要を説明させて頂きましたので、次回は「伝染病名とその症状」「人畜に被害を及ぼす伝染病」についての記事を執筆させて頂きたいと思っております。
関連ページ
- こんなにたくさんいる乳牛の種類
- 牛の4つの胃袋、実はその内3つは胃袋ではなかった?
- 牛はなぜ、涼しい場所で飼われているか
- 乳牛のエサの種類と食事量
- 牛乳ができるまで
- 乳牛の口の中の正体
- 乳牛のライフサイクル(誕生〜分娩まで)
- 乳牛にも産休がある?
- 乳牛が患う病気とは
- 酪農に使われる道具とは
- 乳牛の乳房の中身
- 牛乳はこの様にして搾られる
- 乳牛の生活とその社会
- 乳牛の体重測定・BCS
- 乳牛にも整形手術はある
- 獣医師の仕事内容
- 獣医師が使う7つの道具
- 乳牛の管理システム・牛群検定とは
- 乳牛の肉利用について
- 乳牛の1日の生活スタイル
- 乳牛のマニュア(ふん)スコアとは?
- 牛乳の価値を決める乳質とは?
- 牛の漢方医学のハンドブック「牛書」とは?
- 「牛書」から診る牛の起立不可の病気とその対策
- 「牛書」から見る病気26番「ツクヒ」とは?
- 良質な牛乳が備える条件
- 異常風味がする生乳の原因と対策
- 牛にも鍼灸治療がある!
- 乳牛の血統登録
- 乳牛にも原戸籍と住民票がある
- ホルスタインの起源
- 牛の情報管理「牛トレーサビリティ法」とは?
- 乳牛の伝染病名とその症状
- 人にも感染する家畜伝染症がある
- ジャージー牛の成り立ちを辿る
- 搾乳作業の変移
- ミルカー(搾乳機)の歴史とその技術進化
- パイプライン搾乳の登場
- 様々なタイプがある搾乳方法(パーラー)
- 様々なミルキングパーラーの種類
- 日本での搾乳機器進化の道程
- 高度な搾乳技術の誕生・搾乳ロボットなど
- 仔牛にも代用乳がある
- 牛の居住区・牛舎の種類と特徴
- 仔牛専用のお家・カーフハッチとは?
- 牛を放牧(放し飼い)をする理由とは?