画期的であったパイプライン搾乳の登場

 酪農史の中において、古代〜中世まで、搾り手がわざわざ放牧場へ出向き、手搾りで乳牛から乳を搾っていた事を思えば、19世紀後半に考案された「ミルカー(真空式搾乳機)」の登場は、明らかに大きな革新であり、その後の酪農史に大きな影響を与えた事は間違いありません。そして、そのミルカーが考案された直後に、牛舎内で?養されている多数の乳牛からミルカーを利用し、搾乳を可能にしたシステム『パイプライン搾乳』が誕生した事も、また大きな技術革新であった、と言っても過言ではなく、現在でも主流な搾乳方法の1つとなっています。

 

 『パイプライン搾乳』とは何か?と思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。パイプライン搾乳とは、『先述のように、現在の酪農でも活用されている搾乳方法の主流の1つであり、牛舎内で乳牛が四六時中、繋ぎ飼い(?養)されている状態であり、舎内の天井と繋ぎ飼い乳牛の間に、搾った牛乳を集乳地まで搬送する「ミルクパイプ」及び「真空圧パイプ」をセットで、パイプラインと呼ばれます。搾乳時に、そのパイプラインを活用し、繋ぎ飼いされている乳牛の乳を真空圧ミルカーで搾ってゆく方法』となります。
 説明文が少し長くなってしまい申し訳ありませんが、兎に角にも、パイプライン搾乳の長所を数点述べさせて頂くと以下の通りになります。

 

@搾り手がわざわざ遠い放牧地へ移動する事無く、建物内に繋留飼養されている乳牛からミルカーで搾乳が可能である。

 

A搾られた牛乳を、バケツなどで一々人力で運ぶ必要は無く、自動的に牛乳がミルクパイプ内を通り、集乳場所(バルククーラー)へ搬送してくれる。

 

B乳牛を搾乳の度に、移動させる必要が無い。

 

 以上がパイプライン搾乳の長所となり、古代〜中世の搾乳方法(放牧場へ移動・手搾り・搾った牛乳を人力で運搬)に必要とされていた労力に比べて、遥かに便利となり、必要労力も相当削減され、搾り手(人間)にかかる負荷は軽減されます。正に機械文明の勝利と言うべきでしょうか。しかし、何事にも一長一短、やはりパイプライン搾乳にも短所があるのもまた否めません。その点は以下の事が挙げられます。

 

A.搾り手が遠くへ移動する必要は無いですが、搾乳のために立ったりしゃがんだりの動作が多く、搾り手には少なからず身体的負担(腰痛)がある。

 

B.手搾りの場合は、乳牛自体や乳房部に掛る負担は無いですが、吸引力が極度に強い真空圧ミルカーで搾乳すると、乳牛(乳房)に対して与えられる負荷が大きい。それが乳房炎の最大原因となる場合が多い。

 

C.乳牛は四六時中、繋ぎ飼い状態なので、放牧場へ放飼不可能である事。基本的に放牧生活を好むとされている牛にとっては、繋ぎ飼いはそぐわない方法となります。

 

 以上がパイプライン搾乳の短所となりますが、B.に挙げさせて頂いた点については、パイプライン搾乳のみに留まらず、現在の様な真空圧ミルカーを使っている限り必然的な短所であり、「機械文明の負の部分」が如実に顕れたものとなります。手搾りでは、乳牛は絶対に乳房炎に罹らないのです。

 

 パイプライン搾乳は、英米・オーストラリアなどの酪農先進国では、19世紀末〜20世紀初頭(江戸末期〜明治・大正初期頃)で大いに活用されていたと思われますが、我が国・日本ではどうであったのか?実は英国などよりも後年の昭和40年代後半〜昭和50年代前半(1970〜1980年代)に、漸くパイプライン搾乳が普及してきました。そして、現在でも7割を超える酪農家がパイプライン搾乳方法を採用していると言われています。では残りの約3割の酪農家さんはどの様な搾乳方法を採用しているのか?それは、先述のパイプライン搾乳の短所?・?の欠点を改善した搾乳方法なのですが、その紹介は別の記事にて、少し紹介させて頂きたいと思っています。

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