乳牛社会のリーダー乳牛

 乳牛は舎内で拘留して飼育されている「つなぎ飼い方式」しても「フリーストール形式(搾乳と飼料給餌時以外は、放牧場や舎内で放し飼いされいる方式)」でも、知り合いの乳牛達が集まって団体を構成しています。この様に複数の乳牛が集まれば『乳牛社会』を構成し、その中では、乳牛社会を束ねるリーダー乳牛が必ず登場し、他の乳牛達の引率などを行います。中には世話好きなリーダーが存在します。
 牛群(乳牛団体)が放牧地へ移動する際・新しい放牧地周辺を一周する時、そして長距離を移動する場合はリーダー乳牛が先導を行って、これに後続する順番も殆ど決まっています。特に、集団内で先頭牛と末尾牛では乱れる事は(事故などが無い限り)少ないです。この関係を『先導・後続関係』と言われています。
 その先導役選出方法ですが、殆ど同様な「先導・後続関係」社会を持つ人間界では、話し合い(査定)・選出・選挙によって決定されますが、乳牛世界の場合はどうでしょうか?白状すれば、牛でもない我々人間の傍目から見れば完全に判りかねますが、リーダー牛は経験豊富でメンバーの信頼が厚い牛が選定されているようです。やはりどの社会でも、優秀で周囲の人望が厚い者が選ばれるのが理のようです(勿論中には、例外もありますが)。
 また先のフリーストール飼育方式の場合、搾乳時に入る作業場・搾乳室への乳牛の入場順番もほぼ一定しています。親しい乳牛同士は続いて入場するし、逆に不仲の乳牛同士がいたりすると、互いに入場を邪魔したりするケースもあります。
 因みに、先述の乳牛社会内にある『先導・後続関係』というのは、飽くまでもメンバー内で経験豊富で信頼感が厚い、いわば『人望型』の乳牛がリーダーとなります。決して闘争が強く、無理矢理に他の乳牛を従わせる様な暴力的乳牛が、乳牛社会のリーダーになる絶対条件ではないようです。この闘争関係の強弱は、また違う関係となります。
 面白いものです。人間社会でも古今東西、国々を制覇する程の絶対権力を持った、有能であり、覇道的強勢力(人物)が、絶対的リーダーになった例は少なく、逆に周囲の信頼感が厚い王道的弱勢力の方が最終的に社会を統率するリーダーとなる方が多く見受けられます。周囲に暴力的天才リーダー織田信長の末路と周囲に温和的中庸リーダー徳川家康の終着点が最も良い例ではないでしょうか。
 本題から少し逸れてしまいましたが、乳牛世界にも類以した現象があるというのが、何とも感嘆させられる思いであります。

乳牛間の闘争行動と親和行動

 人間社会にも強い人間・弱い人間がおり、社会規模や年齢を問わず、少なからぬ闘争・喧嘩が日常的に起こっている事があると思いますが、それは乳牛社会でも同様です。牛群には闘争の強い乳牛と弱い乳牛がいまして、順位が決まっています。これを『優劣順位』と言います。
 『優劣順位』は、乳牛が若齢期の頃にはありませんが、互いに年齢を重ね、放牧場などで闘争を重ねる事によって乳牛間の優劣が徐関係々が強固に形成されていきます。乳牛の頭数が少ない小社会だと、強い乳牛〜弱い乳牛順に並べてゆくと直線的になりますが、逆に頭数多い大社会だと「A乳牛はB乳牛・C乳牛に強いが、D乳牛には弱い。しかしそのDはB・Cの両乳牛に対しては弱い」という複雑な闘争関係が成立するという「群雄割拠状態」になるケースが多くあります。
 闘争行動には、頭突き・押し退けなど直接攻撃するものと、威嚇(咆哮など)や回避など間接攻撃があります。異なる牛群を混成する時・新しい乳牛を牛群の中に入れると、群内で頭突きなどの直接攻撃が多くありますが、数日後には威嚇などの間接攻撃に変わっていきます。
 直接・間接関わらず、牛群内で闘争行動が発生しやすい原因として、「飼槽規模が頭数に比べると小さい」「牛床の数が不足する」の2点が主に列挙されています。

 

 闘争行動の反対が『親和行動』になりますが、よく知られている親和行動には舐め行為(グルーミング)があります。この行為を行う乳牛・行わない乳牛は区々ですが、特に優劣順位が近い乳牛間で、互いに舐め合い親睦を深める事が多いようです。順位が近い者同士で親睦を深め、牛群内で余計な摩擦を起こさない様にしているようです。

 

 放牧場で牧草を呑気に食んでいるという、一見牧歌的な社会内で日々過ごしているイメージの乳牛達ですが、乳牛社会にも人間社会に似た、日々の人間同士の諍いや親和があるのです。

 

(参考書籍:新しい酪農技術の基礎と実践 農文協)

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