馬の品種の登録
現在、世界各地で飼育されている馬の品種は約250品種と言われています。しかし、今日でも其々の品種の定義は未だ曖昧であり、先の数字も確実ではありませんオーストラリアのストックホースが好例ですが、特定地域の在来馬で登録団体の存在しない馬の存在や利用目的で一纏めにされいる品種や希少品種も馬の品種に含まれています。
強いて「品種登録を行う団体によって、それぞれの規定に従い登録された馬」を定義として馬の品種を振り分けると、約50種類になると言われています。この分類に入るのが著名なサラブレッド種やアメリカンクォーター種になります。
サラブレッドの様に、特定の登録団体が存在する品種であれば、生産馬がその品種に属する馬に公認されるには、その品種の血統の管理団体に申請を行い、登録を行わなければいけません。かつて軍用馬として馬が重要とされていた時期は、明治時代の日本を含め多くの国々では政府などの公立団体で登録管理が行われていましたが、現在の様に馬の利用目的(レジャーや競技)の変化したので、品種登録事業は民間団体によって実施されています。
馬の品登録は、乳牛や肉牛の様に絶対必要なものではないですが、やはり登録の有無は大小なりに影響があります。好例として、売買の値段に大きな影響を与える上、品種登録されていなければ公営競技としての競馬に出場は禁止されているという拘束があります。
馬の登録の方法については、登録団体で『外貌登録』『能力登録』『閉鎖登録』の3種類が用いられています。その3つの登録方法について紹介させて頂きたいと思います。
外貌登録について
文字通り、品種登録の条件を外貌で決める方法です。即ち特定の毛色や体高などを満たしている事を査定します。品種の固定を容易かつ短期間にできる方法になります。
ペイントホースといった斑点模様の毛色を有する馬は、特定の毛色(2色以上)を有している事を登録の必須条件にしています。またペイントホースとは真逆に挙げられるのは、鹿毛で有名なクリーブランド・ベイであり、少しでも鹿毛とは違う毛色(斑点を含む)が混ざっていると品種登録は認められません。
体高を登録条件にしている品種がありますが、その筆頭がペットホースとして一時期有名になったミニチュアホースとなります。アメリカミニチュアホースの登録団体は品種登録の条件として、体高『85cm以下』を定めています。
能力登録について
馬の走行力や牽引力の能力といった特定の運動能力の条件を設け、その条件をクリアした馬、またはその条件をクリアした親の馬になった折に登録を行う方法です。走行能力などの馬にとって最も重要な事を条件としているので、効果的な登録方法となっています。
能力登録条件をクリアしている品種として、繋駕速歩競走で有名な米国原産のスタンダード・ブレッドがいます。また古来より乗馬大国であり、現在でも育種改良が多く行われているヨーロッパでは、乗用馬の品種の多くは厳格な能力検定が行われています。
閉鎖登録について
父母が共に同じ品種として登録されている事を条件としている登録になります。この条件を満たして閉鎖登録に入った優れた馬は、他品種からの混血を防ぐ事になり、純血を護れます。普通は、外貌登録や能力登録を進めてゆき、品種の固定が進んだ場合、漸く閉鎖登録へ移行します。
この閉鎖登録条件を満たした品種として、先出の米国原産のスタンダード・ブレッド(1941年に登録)がいます。因みにサラブレッドの場合は、8代に渡りサラブレッドを交配されて漸く、サラブレッド種として閉鎖登録される事になっています。
様々な馬の分類法
馬は体格や用途によっていくつかの呼称で大きく分類され、世界各地によってその分類方法が違います。
@日本では、馬を『軽種』『中間種』『重種』『在来種』の4種類に分類されて呼称されています。軽種馬の代表格として、競走馬のサラブレッド・アラブ、そしてこの2種の血を受け継ぐアングロ・アラブおり、中間種は軽種馬以外の乗用馬や雑種となりますが、クォーターホース・スタンダード・ブレッドがこの中間種に分類されます。尚、中間種に含まれる雑種は、交配の仕方により、軽・中・重半血種と3種に分類されます。重種は馬車を曳く大型馬となり、ペルシュロンがいます。在来種としては、木曽馬や道産子馬が有名である事は周知の通りです。
上記の馬の呼び方は、1937(昭和12)年、当時、軍馬を管理していた陸軍省外局の馬政局が、フランスで採用されていた方法を参考にして編み出した『馬の種類呼称』という規則を発端としていますが、これが戦後になっても現在に生かされています。これは飽くまでも筆者の憶測ですが、フランスの馬の呼称を日本が採用した理由は、当時からフランスは世界屈指の乗馬大国という事もあると思いますが、明治時代に旧日本陸軍が日本騎兵を創設する際に、フランス騎兵方式を採用していたからだと思われます。
A上記までは日本で用いられている馬の4分類ですが、英語圏ではまた少し違いがありまして、『軽量馬』『中等重量馬』『重量馬』の3種に分類があります。軽量馬は、ポニーと重量馬以外の身体が大きくない乗用馬になり、重量馬は文字通り大型の馬であり、ペルシュロン等がこの分類になります。
Bドイツから誕生した分類法として、外見や血統からではなく、馬の運動性の違いで分類する『温血種』と『冷血種』の2種類があります。温血種は速力に優れる軽種馬になり、冷血種は重種馬に区分されています。
C数値によって馬の品種の分類方法が、1889年にイギリスで誕生しています。好例として『体高148cm以下の馬をポニー』と規定がありますが、現在でも日本を含める世界各地で、この規定が適用されています。またペットホースとして有名なアメリカン・ミニチュアホースの場合は、体高85cm以下が規定されています。
D更に特殊な分類法として、歩法(馬の走り方や速力)で馬が分類される場合もあります。即ち、走行力に優れるサラブレッドやアラブは『駈歩馬』に入り、繋駕競走馬で速歩が得意なスタンダード・ブレッドは『速歩馬』、米国原産馬で特殊な歩様を特徴とするテネシー・ウォーカーは『常歩馬』の3種があります。(筆者の経験上、日本では馴染みが浅い分類法です)
E先程まで多くの馬の分類法を紹介させて頂きましたが、単純に用途別よっての分類法もあります。乗馬向きの『乗用馬』。ばんえい競馬などを代表するソリなどを曳く『輓用馬』。驢馬など荷物運搬用で利用される『駄馬』という3種の分類法もあります。
以上が世界各地の主な馬の分類法ですが、それぞれ国々によって独自の分類法を必ず利用しているという訳ではなく、時と場合によって、様々な分類法を用いられています。特に日本では、普段は@の日本の分類法が利用されますが、Cの数値での分類法も使う場合もあります。
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