馬の話

 馬は、「牛馬」と呼ばれる様に、昔から牛と共に日本を含める世界各国で、交通・運搬・農耕などの様々な場面で、人々の生活には欠かせない動物として共存してきました。紀元前4000年頃には、既にユーラシア大陸では馬・ロバなどが家畜化とされており、3500年頃には馬車が存在しているという古く深い歴史があります。
 日本でも少し遅れますが、4世紀頃には馬が中国大陸から伝来していたと言われており、7世紀初めには日本国内の情報伝達方法として、「駅伝制(伝馬)」が設立され、東北〜甲信越など東日本中心に官営馬牧場(当時は「牧・マキ」と呼称)が設立されました。
 牛は朝廷や寺院に使われる新鮮な牛乳を得るため、畿内を中心とする西日本の牧場で飼育されましたが、馬は離れた東国の牧場で飼育されていました。後年、この官営牧場を確保したのが、関東の開拓者集団であった東国武士団でした。彼らは騎馬武者という精鋭軍団を創り上げ、やがて武士政権(鎌倉幕府)を打ち立てることになるのです
 馬の歴史などを辿ってゆくと、交通手段や農耕などに関わらず、馬は人間社会の歴史転換にも深く関わっていることを感じます。

 

 現在では、機械自動車や自転車が主流になり、人間社会では馬の需要は激減したのは確かですが、それでも日本国内や海外の山間地域の一部などでは、未だ馬を物資運搬や農耕に利用されていますし、何よりも日本では、競馬・乗馬・地方祭典などのレジャーや文化面で活躍して、未だ人々の生活に関わっていることも、また確かな事であります。
 馬という生物は、流石に都市や街の中で見るという機会は滅多に無いですが、競馬・時代劇などのTV放送では時々、何気なく見かけることがあると思います。競馬では著名なサラブレッド種、西部劇に登場するのはクォーター種、馬車牽引や農耕にはペルシュロン種が利用されていますが、今回は各方面で活躍する馬の種類や特徴を紹介してゆきたいと思います。

馬の種類

 馬は、草食のウマ科という哺乳類の動物であり、その科目には、軽種馬(サラブレッドなど)、農耕や大型馬車(ばんえい競馬)に使われる重種馬(ペルシュロン)、軽種と重種の中間性質を持つ中間種(クォーター)、小型馬のロバ、ポニー(日本在来種も含む)、雑種などの種類が属します。
 先に述べた軽種・重種などの種類を含めると、現在、世界で認定されているだけで、250種類以上にも及びます。今回もその一部を紹介してゆきたいと思います。

 

@サラブレッド種(軽種馬)

 

・原産国:イギリス

 

・平均体高(身長):165cm〜170cm

 

・平均体重(おとな馬):400kg〜500kg

 

 「馬」と聞けば、この種類を真っ先に思い浮かべるのではないでしょうか?最も速く走る馬であり、競馬や夏オリンピックの馬術の競技に出ているのは、このサラブレッド種になります。
競馬に勝つ目的の為に生まれた品種でありますが、最初のサラブレッドは、17世紀〜18世紀に、英国王室所有の競争馬にアラブとトルコの種馬を交配させて、誕生したそうです。その後も積極的に改良生産が続けられています。余談ですが、名門や血筋が良い方々を、○○界のサラブレッドなど修飾しますが、これは常に改良が重ねられ、完璧に育て上げられる馬の名前サラブレッドに由来しています、「完璧(Thorough)な育ち(bred)」。
 筋金入りの名門サラブレッドは資産になり、値打ちは数億円を超えることもあります。現在でも毎年、英米国・オーストラリアや日本をはじめとする世界50ヶ国以上で10万頭以上が生産されており、サラブレッドが愛用されているかがわかります。
 競走馬や競技用で大活躍するサラブレッドですが、それ以上に重要な役割を果たしているのが、『他品種開発の礎』となり、馬の世界に大きな影響を与えていることです。
米国のクォーターホース(後述)やフランスのセルフランセなどは、サラブレッドから誕生した品種です。

 


競馬で活躍するサラブレッド。ラストスパートでは、最高時速約60キロ以上の速さで走行します。稀代の競走馬ディープインパクトは最高時速65キロ以上で疾走していたそうです。

 

Aクォーターホース(中間種)

 

・原産国:アメリカ

 

・平均体高:150cm〜155cm

 

・平均体重(おとな馬):約400kg

 

 クォーターホースは、アメリカ大陸に移住したスペイン系人種が、英国のサラブレッドとスペイン産のアンダルシアン種(アラブ種の説もあり)を掛け合わせて誕生させたのが始まりだと言われていますが、現在では、世界最高頭数を誇り、400万頭以上が世界各地で存在しています。
 短距離の瞬発力に優れ、カウボーイが乗っている馬は、この種類になります。先のサラブレッドは、競馬や競技と言った余興や趣味といったのを主目的として誕生しましたが、クォーターは、カウボーイが仕事するのを主目的で開発されました。カウボーイは、騎乗で獲物を追い、急発進や急停止を行い、下馬して獲物をロープで捕獲するという激しい作業をするので、それらの状況に早く対応できるように、サラブレッドに比べ、小柄で筋肉質体型で四肢も太くなっています。
 名前のクォーターホースの由来は、米国では昔から、様々な物質に1/4単位をよく使いますが、クォーター(1/4)もそこから由来し、「1/4マイル(400m、1600mの1/4)」の短距離を超高速で走行できるので、クォーターホースと名付けられました。短距離走では、サラブレッド以上の速力を出し、平均最高速度は時速75キロにも及びます。その上をゆく最高速度88キロを出した馬もいます。
 現在でも米国やカナダでは、カウボーイ(牧場作業員)に愛用されいてますが、激しい彼らの作業から派生したロデオ競技(牛追いや急発進・急カーブ・急停止を競う競技)などでも愛用されています。

(ウエスタン乗馬競技に出場しているクォーターホース)

 

 余談として、日本で馬を扱う方々の間では有名な話ですが、映画「七人の侍」「影武者」の監督で有名な黒沢明氏(1910〜1998)は、映画「乱(1985年公開)」を撮影をする際、肢が太く小柄で体格が太い日本馬に、出来るだけ見せるため、長身痩身のサラブレッドの利用をせず、出来るだけ日本馬に体格が似た種類であったクォーターホースを50頭を、米国からわざわざ輸入して撮影に利用したエピソードがあります。

 

Bペルシュロン種(重種馬)

 

・原産国:フランス

 

・平均体高:170cm以上、大きなものでは2m近くもある場合があります。

 

・平均体重:1000kg以上!悠にサラブレッドの倍以上あります。

 

 フランスのノルマンディー地方が原産地で、7世紀頃にバルブ種(西アフリカ・バーバリー海岸原産)に、アラブ馬の混血で誕生し、後に強力なベルギー産馬などが交配され、この品種が完成したと伝えられています。昔から戦場(戦馬車や音楽隊の大ドラム運搬)・農耕などに利用されており、現在でも、儀式祭典・レジャー用の馬車、森林(材木運搬)用として、様々な場所で用いられています。
 桁外れのパワーを持っているにも関わらず、従順で御しやすいので、世界各地に輸出されており、その中で1908年のアメリカ産ペシュロン種は、高さ210m・体重1380kgもあったと言われ、これが古今東西の記録の中で、世界で一番大きい馬だと言われています。

 

 機械エンジンの力(海外では仕事率にも利用される)を表現する場合、『馬力』という単語が用いられますが、これは重種馬の力に由来しています。英国の発明家・J・ワット(1736〜1819)が、1769年に新型蒸気機関を発明した際に、その機械の動力を示すために、ワットが考案したのが始まりです。
 馬力には、英国式・フランス式が主流あり、記号や計算が違いますが、日本式馬力では、『1馬力は、75kgの物を毎秒1m動かす力』で計算されます。

 

 
凄まじい馬力を発揮するペシュロン種の4頭立て馬車

 

C木曽馬(日本在来種)

 

・原産国:蒙古(モンゴル)が起源。中国大陸・朝鮮半島を経て、日本に伝来し、木曽谷で多く飼われたので木曽馬と呼ばれるようになったそうです。

 

・平均体高:133cm〜136cm

 

・平均体重:350kg〜400kg

 

 日本の馬と言えば、与那国馬・北海道和種(通称:道産子)などがありますが、この木曽馬が一番著名ではないでしょうか。木曽馬などの日本在来種馬の祖先は、モンゴル草原出身と言うわれ、中国・朝鮮を経て、4世紀頃に日本に到来し、6世紀に現在の長野県木曽や筑摩郡一帯・岐阜県恵那付近で、牧(馬牧場)が開場されてから飼育が始まりました。
 木曽馬を含める日本馬の高さは僅か130cmぐらいであり、現在では、小型馬のポニーに分類されます(ジャパニーズ・ポニー)。とにかく体格はとても小さいです。鎌倉幕府を創設した東国武士団・戦国時代の武田騎馬軍団が使っていた馬は、全てこの木曽馬になります。サラブレッドの様な立派な体格をした馬ではなかったのです。
 戦国期に日本に長く滞在したキリスト教宣教師・ルイス・フロイス(1532〜1597)は、自著「ヨーロッパ文化と日本文化」の中で、「太閤(豊臣秀吉)の名馬を見たが、とても貧弱であり、西洋の馬の方がとても優れている」と著述しています。体格な立派な西洋馬を見慣れている彼から見れば、木曽馬(日本馬)は、余程頼りない馬に見えたことがわかります。

 

 日本馬は、山地で育成され続けてきたので、西洋馬より体格は劣りますが、丈夫な四肢と硬い蹄を持ち怪我をしにくいので、江戸期〜大正期までは、農耕馬として重宝されましたが、明治期に近代陸軍の創設のために西洋馬(軍馬)の導入が主流となり、木曽馬は徐々に淘汰され続けた結果、明治維新の頃は5000頭いた木曽馬が、昭和40年代には、約500頭に激減し、昭和50年には30頭代まで落ち込みました。しかし、近年は木曽馬の保護活動が開始され、平成26年には長野県木曽谷を中心に、約144頭の木曽馬が飼育されています。因みに、日本馬で一番多く飼育されているのは、北海道和種の道産子馬であり、平成26年現在でも約1200頭も全国で飼育されています。

 

 以上、馬の種類を@軽種馬 A中間種 B重種馬 C日本在来種(ポニー)の順に紹介させて頂きましたが、勿論これも、ほんの一部であり、世界には多くの馬がいます。ここでは紹介しませんでしたが、馬の種類として、見た目は馬なのに、馬として公式認定されていない、オーストラリア原産のオーストラリアン・ストックホースという奇妙な馬も世界に存在するのです。また見た目が愛嬌があり、大人しく働き者の驢馬(ロバ)も、古今東西、人間に愛用された馬もいます。また別の機会に、他の馬も紹介してゆきたいと思います。