『オカラ』とその実情
以前の記事で食品残渣物を家畜飼料へ再利用する「ecofeed(エコフィード)」について紹介させて頂きましたが、その最たる物が今記事で紹介させて頂く『オカラ』ではないでしょうか。
『オカラ』、別名『卯の花』『雪花菜(せっかさい)』は、皆様良くご存知の通り、大豆から豆腐へ製造する際、豆乳から出る搾り粕になります。スーパーマーケットなどの豆腐や納豆の加工食品コーナーで、生オカラが小分け安売りされていたり、惣菜コーナーでは、人参・椎茸や鶏肉が入った炒り物オカラとしても販売されているのを見かけます。
筆者が『オカラ』と聞いて思い浮かべるのが、(余談になってしまいますが)往年の時代劇スター・近衛十四郎さんと俳優の品川 隆二さんが主演されていた時代劇「素浪人・花山大吉」で、近衛さん演じる凄腕浪人・花山大吉がオカラが大好物であり、それを肴に酒を飲んでいるシーンがありました。また品川さん演じる花山の相棒・焼津の半次が、花山と喧嘩をした際に、彼の事を「オカラ野郎!」と罵倒する場面もよく登場していました。
豆腐が健康食品であるという事は、これはもう周知の通りですが、その残渣物(搾り粕)であるオカラもやはり栄養価に優れている、健康食品の1つであります。しかし、上記の花山大吉の様な存在は別として、我々が豆腐の様に、オカラをよく食べるという事は滅多になく、(近年ではオカラを使った菓子などが製造されている動きはありますが)、辛うじてスーパーの惣菜コーナーで販売されている味付けオカラを見かける程度であります。その惣菜オカラも売れ残り、タイムサービスで半額シールが貼り付けられている状態で、寂しく置いてあるというのも見かけてしまいます。兎に角も、我々(特に日本人を含むアジア人)にとっては、豆腐自体は非常に馴染みが深い食品ではありますが、その副産物であるオカラには、残念ながら、馴染みが薄い物である事が言えます。
豆腐加工会社や工場にとっても、豆腐加工の際に出てしまうオカラの処理には苦労しているようです。大規模な加工会社では、毎日何千以上の豆腐が製造されるので、それに比例して豆腐の残渣物であるオカラの現出量が増えるのが当然の成り行きであります。
オカラも豆腐のように消費者の方々に売れれば、加工会社としても嬉しいのですが、先述の如く、オカラは決して我々には馴染みが深い食物ではないので、簡単には販売処理できません。売れないとなれば、廃棄するしか残っていないのですが、オカラは「産業廃棄物」対象となっていますので、処理も一般家庭廃棄物のように気軽に棄てれる物ではないので、豆腐製造者の皆様にとっては、日々大量に出るオカラ処理作業には頭を痛められているのです。
そのオカラを有効に活用する動きが注目され始めています。それが冒頭で述べましたオカラ(食品残渣物)を飼料に転換する「ecofeed」であります。
オカラを家畜飼料へ再利用
先述のように、オカラの殆どは、産業廃棄物として処理されますが、栄養価が高い食品であり、100gの栄養価の一般分析は以下の通りです。
・エネルギー:111kcal
・炭水化物:13.8g
・食物繊維(セルロース):11.5g
・粗脂肪:3.6g
・タンパク質:6.1g
・水分:約75.5g
・カルシウム:81mg
・カリウム:350mg
・ビタミン(特に骨格強化・止血効果があるビタミンK):8ug
以上の様に、オカラには炭水化物・タンパク質・カリウムなど栄養素が含まれていますが、特に優れているのが、動物中の腸内を清掃作用を持つ食物繊維であり、100g中11.5gは、ごぼうの約2倍と言われてます。
(参照データ:「五訂日本食品標準成分表・オカラ新製法」および「日本豆腐協会サイト内:オカラでガン予防」より)
これほど優れた栄養価を飼料に転換しない手はありません!オカラ効果に力説して止まない筆者ではございますが、実は、私が現在、勤務している乗馬クラブでは、約20頭程の乗用馬(中間種)やポニーやロバ(小型馬)、除草用羊約8頭を所有していますが、ほぼ毎日、クラブ近郊にある豆腐製造業者さんに赴き、「無料」で袋詰めのオカラを引き取って、それらを前記の動物たちに給餌しております。因みに、この給餌方法を続けて1年が経とうとしています。
以前はマメ科牧草のアルファーや粗飼料のヘイキューブを飼料会社から購入しておりましたが、飼料費が高い上、ヘイキューブなどは乾燥固形飼料ですので、消化が悪いのが原因により、馬にとっては最も怖い疝痛(腸内に排泄物が詰まる)の発生頻度も多かったです。
オカラに飼料転換した後は、飼料費が抑制できたばかりか、オカラの豊富な食物繊維のお蔭で、馬の長い腸内が整えられ、通じが良くなり、疝痛もここ1年間発生しておりません。肝心の馬や羊のオカラ飼料に対する嗜好性(食欲)も抜群であり、給餌当初はオカラを食する事に抵抗を示している馬が数頭いましたが、反復で給餌する事によって難なく食べるようになりました。無論、喰い付きが良いので、動物たちも肥えております。寧ろ以前の購入マメ科牧草を給餌していた頃より、現在のオカラ給餌の方が「マルマル」と肥えている状態であります。
上記の様に、豆腐製造業者様も本来、産業廃棄物として費用をかけて廃棄しなくてはならないオカラを、無料で馬たちが餌として処理してくれるので、業者の皆様も喜んでくれています。動物飼育者も助かり、豆腐生産者も喜ぶという姿は、正に『WinWinの関係』であります。
以上にオカラ給餌についての利点を長々と記述させて頂きましたが、万物には一長一短がある様に、オカラ給餌にも、やはり欠点や問題点もあります。オカラ飼料給餌方法を行ってゆく上での問題点は、『定期的かつ一定のオカラの量を確保が可能か、否か?』という事と、オカラは先述の成分表の通り、水分が70%以上も含まれるナマ物ですので、2日も経ってしまえば異常発酵となり、飼料として再利用不可になります。『つまり生オカラ状態ですと、日持ちが悪く、長期保存に絶対向かない』という欠点もあります。
主に上の2点が問題点として挙げられますが、筆者がお世話になっている乗馬クラブでは、地理的環境の恩恵に大いに預かっているのですが、近郊に大小の豆腐工場が4軒あり、オカラの確保には事欠きません。また保存方法としては、出来るだけオカラを確保した当日に、動物たちに給餌するようにして、余った場合は、冷蔵庫などに保管し、翌日中には給餌するようにしております。
大手トイレメーカー・INAXは、約10年前程に、生オカラを日持ちの良い乾燥飼料に転換する機械「オカラット(オカラ乾燥機)」を生産販売を開始しております。残念ながら筆者の勉強不足で、機械の詳細は知らないのですが、画像を見たら、まるで大型工場に設置する様な、非常に大掛かりな機械システムですので、簡単に購入するという訳にはいかないようです。ただ、この機械が、何れ手頃な値段・サイズで購入が可能になったならば、オカラ飼料の発展、ひいてはEcofeedの飛躍に繋がる事は間違いないと思います。Ecofeedの拡大を望む筆者としては、オカラ乾燥機の品質向上に密かに期待を寄せる事を禁じ得ません。