音楽鑑賞は牛に効用か?

 以前、巷に出た噂の1つに、黒毛和牛のブランドである神戸牛や松坂牛には、「クラシック音楽鑑賞をさせ、牛たちの気分転換となり、それが結果的に、肉質向上に一役買っている」という物がありました。この記事をお読みになっている皆様も、もしかしたらお聞きになった事がある噂かもしれませんが、皆様は、この噂をお信じになられますか?筆者は、どちらかと言うと、この噂を信じない立場であります。
 乳牛でもドリトル先生の様な超能力人でもない凡夫の筆者には、乳牛の気持ちは解らないので、牛の音楽鑑賞は全く無意味である!とは断言できかねます。拠って、先に「どちらかと言うと、信じない」と述べさせて頂きました。何とも歯切れ悪く、煮え切らない言い方である事は、筆者も十分承知しておりますが、先述の通り、自分が乳牛やドリトル先生で無い以上、明確に断定できないのであります。しかしながら、僭越ではございますが、家畜動物飼育に長期間携わっていた筆者の立場からすると、「音楽鑑賞が牛の気分転換および肉質向上になる」という事が、いかにも滑稽な都市伝説としか思えないのであります。そして、「音楽鑑賞が牛によい」という説は、獣医学界でも、根拠が無いもの、という結論を現時点では出ております。

 

 強いて「牛の音楽鑑賞」の利点説を挙げさせて頂くとすれば、『給餌の時間に、いつも音楽を流して、その感覚を牛に悟らせ、音楽が流れると、反射的に食欲を呼びこさせる』という方法論があります(神戸肉流通推進協議会 公式HP参照)。
 これも医学的には実証されている訳ではないので、筆者も絶対賛成はできかねるのですが、確かに普段の給餌時間に近付き、飼料ワゴンを動かした音で、牛が「食べる態勢に入る」、つまり、「ご飯の時間だー!」と思い、食欲が増している状態です。飼料ワゴンなどの動いた気配を感じて、牛が飼料を食べる準備が出来るので、上記の『給餌の時間に、音楽を流す』という説は、存外、効用があるかもしれませんね。しかし、何度も言いますが、これも医学的根拠はございませんので、あしからず。

 

 寧ろ、音楽鑑賞で気分転換(癒し)を享受しているのは、やはり「生産者(人間)」でしょう。これは当然の事であり、筆者がわざわざ申すまでもございませんが、生きて仕事をしてゆく以上、イライラ感やストレスとは無縁ではいられません。また言葉が通じず、意思疎通ができない牛の世話全般をしてゆくもの大変であります。白状しますが、特に、乳用牛の搾乳作業には、大人しくない乳牛がミルカーを蹴落としたりして、イラッ。と来る事が多々あります。因みに、こういう時に、怒りに任せて、牛に圧力を加えると、当然乳牛もストレスを感じてしまい、乳の出が悪くなってしまいます。
 こういう時に、生産者の好きな音楽を流しておくのも、気分転換の1つの良い方法だと思います。これによって、生産者の気持ちが落ち着き、その人の落ち着いた気分が牛に伝わって、良く食べ、よく育てば、生産者の音楽鑑賞も素晴らしい事でありませんか。これこそ、『牛にも効果がある音楽鑑賞』と言うべきではないでしょうか。とにかくにも人には勿論の事、動物たちに対しても、可能の限り、落ち着いた気分・温和な心で、常日頃接してゆきたいものであります。