食品製造副産物とエコフィード(Eco Feed)とは?

 昨今、世界一の家畜動物飼料原料輸出国である米国内の飼料作付面積減少、天候不順などが原因となり、飼料生産量が減少によって、米国の輸入に依存している日本畜産業では、粗飼料(牧草)・濃厚飼料(穀物系)を問わず飼料費が年々高くなっています。

 

 国内外問わず、家畜経営にとって一番の高額支出となるのは、やはり何と言っても「飼料費」ですので、上記の様な昨今の輸入飼料高騰は、日本国内の畜産業にとって厳しい現状の中で、徐々に注目されているのが、『食品製造副産物』を家畜飼料に転用する『エコフィード』という方法であります。

 

@『食品製造副産物』とは何か?豆腐、焼酎、酒類などの発酵食品製造過で出るオカラ(卯の花)やビールや焼酎粕など残渣物(ざんさぶつ)を指します。これらは食品産業廃棄物として焼却処理されていますが、最近は家畜飼料の転用に大いに生かされている動きもあります。以前は上記の残渣類の飼料転用を、残飯飼料や食品廃棄物飼料と呼ばれ、何とも悪いイメージがありましたが、現在では食品残渣飼料、そして『エコフィード 』いう呼称が現在では定着されています。

 

A『エコフィード(Eco Feed)』とは何か?:先ずエコ(eco)についてですが、本来は「Ecology(エコロジー)」と呼ばれており、ギリシア語で家を意味する「オイコス(oikos)」から派生した言葉だと言われています。現在世間で出回っている家電製品や自家用車などで「エコモード」があったりと、皆様よくこの言葉を見聞きされたり、意味もご存知な方も多くいらしゃると思いますが、敢えて意味を述べさせて頂くと、『地球に存在するあらゆる資源を節約して、環境に優しい素材を(可能の限り)利用または再利用をしてゆく』という意味になります。
 そして、「フィード(Feed)」という意味は、これも良く知られているように、「動物にエサを与える・動物を飼う」という意味ですので、@で紹介した食品製造副産物をエコとして家畜飼料(フィード)として再利用するという事で誕生した造語が『エコフィード(Eco Feed)』となります。

 

 『エコフィード』、何とも洒落た呼称です。この造語が誕生した経緯については、先述の残飯飼料と言った聞こえが悪く、世間に偏見を与える可能性があるために、以前から関係者の間で造られ、研究発表会などの場で提唱され始めたのが嚆矢となり、社団法人 配合飼料供給安定機構が、2007(平成19)年6月15日に商標登録として取得後、2014(同26)年10月1日に公益社団法人・中央畜産会が商標を受け継ぎ、現在に至っています。(中央畜産会公式HP参照)

 

 現在、エコフィードを推奨している(公社)中央畜産会さんが提唱する『食品循環資源を原料にして加工処理されたリサイクル飼料とはどのような物か?』という事が、公式HP内のエコフィード情報ページで説明されていますので、以下の通りに抜粋させて頂きます。

 

1.食品製造副産物:酒粕、焼酎粕、醤油粕、豆腐粕、果汁粕パン屑等、食品の製造過程で得られる副産物や野菜カット屑等の加工屑
2.余剰食品:売れ残りのパン、麺、弁当、総菜等、食品として製造された後、利用されなかったもの
3.調理残さ等:調理に伴い発生する残さ等 を利用して製造された家畜用飼料を指します。
(以上、中央畜産会HPエコフィード情報ページ文を抜粋させて頂きました)

 

 上記の通り、中央畜産会さんが言うエコフィードは、筆者が先に紹介させて頂きました食品製造副産物に加え、廃棄された販売パンや弁当惣菜などの食品やレストランで出た残菜などを統括し、広義になっています。実際、上記の3種類の食品循環資源を混合加工し、家畜動物に給餌されている多くの事例が、農林水産省の公式HP内で、PDFファイルとして紹介されています。

 

 エコフィード、つまり食品循環資源の飼料利用を更に促進・定着させるために、2011(平成23)年5月27日、一般社団法人 日本科学飼料協会が『エコフィ−ド利用畜産物認証制度』を開始し、生産者・食品加工会社、消費者に地道な運動を続けており、2016年4月現在で、23業者41製品の食品循環資源利用飼料がエコフィードとして認証されているそうです。(日本科学飼料協会 公式HPより)

 

 この記事の冒頭で述べさせて頂きましたが、家畜飼料原料の高騰が大きな原因となり、飼料費が家畜経営に大きな負担になっている現状では、中央畜産会さんや日本科学飼料協会さんが提唱・推奨する『エコフィード』が、今後の日本国内の家畜業を支える基盤になると、筆者は思っております。実際、明治〜戦時中であった一昔の日本の家畜業は、農家で育てた野菜(残菜)などを家畜動物に食わせて飼育していました。特に養豚は、本当に残飯や芋、排泄物を飼料として与えて飼育してい事は有名で、明治前期に、北海道でクラーク博士の設計した家畜舎・モデルバーンがその代表例でありますし、また世界初の総合商社・三井物産の設立に貢献した明治〜昭和期の実業家で茶人としても有名な益田孝氏も、豚を残飯などで飼育していた逸話も残っています。

 

 現在では、家畜動物は牧草やトウモロコシなど、殆どを外国からの輸入に依存している飼料で飼育するのが主流になり、それのみが王道の飼育方法と生産者から消費者全般に思われいますが、飼料費の値上がりなどの問題が擡げてきている今日、過去に国内で主に行っていた「エコフィード」の価値を見直す時期に来ているのではないでしょうか?勿論、輸入の牧草・穀物系の飼料も、今後の家畜業には必要不可欠な存在ではあります。が、「温故知新」という言葉があるように、以前の日本が行っていた古き良き習慣である「食品循環資源を家畜飼料にする事(エコフィード)」は、家畜経営の飼料費の軽減になり、新しき将来の日本家畜業の支えになるのではないでしょうか。
 問題となるのが、「食品循環資源の定期的確保」、それを扱う「生産者」、そしてエコフィードによって飼育された家畜食品を買う「消費者」の理解と協力が必要となってきます。この3つの問題点が徐々に克服され、エコフィードの浸透、ひいては日本の家畜業に大きな支えになることを筆者は強く望んでいます。