英国の肉用牛

 地球に人類(ホモサピエンス)が初めて誕生して以来、世界各地にいた野牛(オーロックス)は人類狩猟の対象となっていましたが、現在から約9000年前には既に、野牛が食用(後には農耕用)として家畜化されたと伝えられています。その初代家畜牛として名が残っている主な種類が、セブ牛(インド)とタウルス牛(ヨーロッパ)と言われています。西洋やインドなどの国々以外も様々な家畜牛が人間の手によって開発や品種改良されていきましたが、その中でも、先んじて英国が多くの肉用牛を開発してきました。英国は18世紀の産業革命や以来、世界一の工業力を誇り、農業面では、羊の開発・サラブレッド馬の開発など多分野のパイオニア的国家になりましたが、やはり肉牛も例外ではありませんでした。寧ろ肉牛や羊の新種開発という農業革命を成功させたからこそ、自国の人口が増加し、ひいては世界史に残る産業革命の成功に繋がったのです。

 

 英国が開発した肉用牛を紹介させて頂きます。これらの英国原産の肉牛が、現在でも飼育されている世界の肉牛の原形になっています。

 

@ヘレフォード種
 イングランド南西部ヘレフォード地方の農民によって開発された肉牛になります。1700年代使役目的で改良が着手されましたが、牧草のみでも肥育が良く、首都ロンドンにもヘレフォード肉が大いに受け入れられました。肥育の良さが好評となり、19世紀を過ぎると、アメリカやオーストラリアに向けて頻繁に輸出され、現地の肉牛産業でも活躍する事になり、現在でも重要な肉用牛になっています。
 外見は、顔・胸部〜下腹部は白色で、背部は褐色が特徴的であり、体高は約145cm、体重は700〜800kgとなっています。

(ヘレンフォードの一例)

 

Aショートホーン種
 イングランド北東部ヨークシャーで開発された乳肉兼用の牛になります。良質な牛乳・牛肉の両方を産出できるという事で、19世紀を通じて英国内で最も人気があり、飼育された牛でした。1907年の統計では、約450万頭も飼育されていたそうです。この品種もヘレフォードと並んで米国などへ向け輸出されましたが、明治期の日本も乳肉用牛という事で着目され輸入されています。全盛期に比べると、ショートホーン飼育頭数こそは大幅に減少していますが、この品種は、現在の英国でも大切にされているそうです。
 外見は、全体的に濃褐色・赤白・白単色があり、体高は約140cm、体重は600〜700kgとなっています。

(ショートホーンの一例)

米国の肉用牛

 現在でこそは米国は世界一の牛肉輸出量を誇る肉牛大国ですが、「新大陸発見者」として有名な探検家・コロンブスという西洋人が南北アメリカ大陸を見付けた頃(1492年前後)は、未だ牛は存在していませんでした。米大陸に牛(テキサスロングホーンの始祖)が初めて到来するのは、1518年・1525年の両年に、スペイン人移民によってメキシコ付近に持ち込まれたのが始まりだと言われています。その後、移民が飼育しきれなかった牛が野生化となり、北アメリカ大陸を徐々に北進してきた19世紀後半の折に、大量のイギリス移民が米大陸に流入し人口が急増。彼らは、食用となる新鮮な野生牛肉を求め中央〜西へ向け冒険します。つまりカウボーイが活躍する「西部開拓時代」を迎えます。
 この頃から、英国からも優秀な肉牛が導入され、スペイン人が持ち込んだ牛と交配されるようになり、米国の肉牛品種改良が本格化するようになりました。その中で産まれた肉牛は以下の通りです。

@ブラーマン種
 テキサス州やメキシコなどアメリカ南部の様な高温乾燥地帯では酷暑に耐えれる牛と必要としており、そのためインド原産のセブ種を19世紀中頃からブラジル経由で本格輸入され始めました。それと前後して、英国からの肉牛・ショートホーン種も導入。そしてセブ種とショートホーンを交配して誕生したのがブラーマン種です。
 ブラーマンはセブ種と同様に、酷暑抵抗性・寄生虫抵抗性・低質な草の粗食にも耐えれる優れた能力を持つ有力な肉牛とされ、米国内に留まらず、ブラジルやアルゼンチンなどの同じく熱帯地でも有力な肉牛として飼育されています。
因みに、ブラーマンという名前は、インド専有の身分制・カースト制内の最高階級・婆羅門(バラモン)に由来します。
 外見の特徴として、白または灰の毛色であり、頭部〜首辺りの色合いが特に濃く、肩こぶが大きいと言われ、体重は500〜700kgが平均だと言われています。

(ブラーマンの一例)

豪国の肉牛

 現在、米国に比肩するほどの畜産大国である豪国(オーストラリア)であり、近年ではWAGYU(ワギュウ)という良質な和牛の肉質に匹敵する肉牛改良に成功し東アジア諸国での牛肉商戦で大成功を収めましたが、南北米大陸・ユーラシア大陸とも太平洋・インド洋という2大海洋に阻まれた豪大陸では牛の伝来は非常に遅く、1788年にようやく初めて英国人によってセブ種が使役目的で持ち込まれたのが、豪国の肉牛歴史の始まりです。その後も引き続き英国からヘレフォード種なども輸入され、1840年には約37万頭もいたそうです。1850年から豪国は黄金期が始まり、世界各地から移民が増え、肉の需要も急増するようになりました。
 広大な豪国の南部では英国産肉牛が飼育され、北部ではセブ種やその交雑種が飼育されていますが、その中でも豪国で品種改良された肉牛は以下の通りです。

 

@マレイグレイ種
 豪国ニューサウスウェールズ修南部で誕生した品種で、20世紀にアバーディーンアンガス種とショートホーン種との交配して成立した品種です。発育速度が速い上、肉付き・肉質も良好なので食肉業者にも好評であると言われています。業者にも人気の肉牛なので、米国・カナダ・イギリスなどへも輸出され、一時期日本でも輸入され、肉牛農家さんの間で、マレイグレイの発育の速さが話題になりました。平均体重は約500〜700kg。因みにマレイグレイという名前の、マレイは地名・グレイは灰色の毛色に由来します。

(マレイグレイの一例)