ヤギの分類

 現在でも世界の家畜ヤギは、欧米とアジアで多くの品種が確立されており、乳用・肉用・毛用として様々な用途として飼育されています。様々な学説はありますが、生物学会では、家畜ヤギを外見(毛色・角や耳の形状・毛の長さ)や用途で、以下の3グループで分類されています。(品種改良の世界史・家畜編 参照)

 

@ベゾアール型:ベゾアーを先祖とし、角はサベール型・耳は直耳とするグループ。
Aサバンナ型:乾燥地帯の適応型であり、角はねじれ型のグループ。
Bヌビアン型:大型の乳用ヤギで、耳は長く垂れ耳のグループ。

 

上記の3つ分類の中で、世界各国の多くのヤギが分類される事になります。今記事内では、ヨーロッパ・インド・日本の体表的なヤギの種類を数種ずつ紹介させて頂きたいと思っています。

ヨーロッパのヤギ

 現代ヨーロッパに飼われているヤギは、@『スペイン品種群』とA『バルカン品種群』の2グループに分けられます。

 

@スペイン品種群ですが、直立耳・角はサーベル型または無角もいますので、ベゾアー型のヤギとなります。乳用種として優れたグループであったので、以前はスイス・フランス・イタリアや北欧などで各農家に少頭ずつ飼われていました。過去と比べるとヤギを飼育している個人農家は減少していますが、現在ではヤギ乳のチーズ生産のため、乳牛の様な大頭数飼育例もあります。

 

Aバルカン品種群は、長いねじれ角を持つサバンナ型のヤギとなります。乳用・肉用・毛用と多方面で役立っています。

インドのヤギ

 中国に次いで、ヤギを多く飼育している大国インドですが、地方によって飼育されているヤギは以下の4つに大別されます。

 

@ヒマラヤ地方のヤギ:毛用として優れており、インド西北部の地方を中心に分布しています。また大型な体型をしており、去勢オスは山岳地へ荷駄としても利用されていると言われています。

 

A北部乾燥地帯のヤギ:大型で長耳体型の乳肉兼用のグループとなっています。このグループの代表的な種類が『ジャムナパリ種』です。また西北部のカシミール州が原産と言われている代表的な毛用ヤギである『カシミヤ種』がおり、乾燥地帯向きのヤギでもあるので、広く飼われています。

 

Bインド半島南部・海岸地方のヤギ:中型体型で毛色は黒色の乳肉兼用のグループとなっています。

 

C東部地方のヤギ:この地方は多湿地帯であり、乳用ヤギは飼育されておらず、肉用ヤギが中心に飼われています。毛色は黒色が多く、体型は角がサベール型または無角であり、耳は直耳なので、ベゾアー系のグループになります。この地方の代表的な種類は、『ブラックベンガルヤギ』となります。

日本のヤギ

 日本でのヤギの飼育は、牛や馬よりも少し遅いですが、既に西暦9世紀には朝鮮半島から九州に伝わったと言われています。乳用としては、というより日本の代表的なヤギとなっている『日本ザーネン種』がいますが、この種類も9世紀頃に伝わったと言われています。余談ですが、古今の名作アニメの1つである「アルプスの少女ハイジ」に登場するマスコットキャラクターであるヤギの「ユキちゃん」も同じザーネン種を基調として描かれたと思われます。
 肉用としては、古くから長崎県の五島列島で飼育されている『シバヤギ』がいます。因みにこの種類は、江戸時代に禁止されていた密かにキリスト教を信仰していた「隠れキリシタン」によって飼育される事が多かったそうです。ヤギ肉を神の生贄として奉げるための儀式に利用されていたと思われます。シバヤギの他にも肉用として九州南部やその諸島(屋久島・奄美大島など)・沖縄諸島の一帯で飼育さている、『屋久島ヤギ』『トカヤヤギ』『与那国ヤギ』います。

 

@日本ザーネン種

平均体高:75〜85cm
平均体重:70〜90kg(雄) 50〜60kg(雌)
外見:毛色は全身白色・立ち耳・サーベル型の角、そして雄雌とも「ヤギひげ(毛ぜん)」があります。外見からベゾアー系のヤギであることが察せられます。

 

日本ザーネン種の原種は、スイスのベルン県ザーネン谷原産のヤギになります。世界で一番の乳量を誇る代表的乳用種であり、泌乳期間は最高で約350日、平均乳脂肪は3〜4%(乳牛のホルスタインとほぼ同等)、平均乳量は700kgとなりますが、優れたヤギだと1000kgを超える場合もあります。ヤギでこれ程の乳量を誇るのは、スーパーカウ(乳牛)ならぬ『スーパーゴート(ヤギ)』になります。

 

Aシバヤギ

 

 雄雌共に体高50cm前後という小柄な体格・太い角を持つ日本在来ヤギとなります。昔から長崎県西部・五島列島を中心に飼育されていました。シバヤギは、外国ではインドネシア・マレーシア・台湾、日本では沖縄といった広範囲で飼育されている小型肉用のカンビンカチャン系ヤギと同系が判っています。
 周年繁殖し、1個体の平均産子数は1.8頭になります。現在では、希少な日本在来ヤギであるので、家畜改良センターなどの施設で貴重遺伝資源として保存されています。

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